目次
いま、記事を読むこと自体がしんどいかもしれません。長く書いてありますが、読み飛ばして大丈夫です。
この記事には、早く立ち直る方法は書いていません。急がなくて大丈夫です。 それを言うためだけに書いています。
いま起きているのは、大切なものを失ったときの自然な反応
先に、一つだけはっきりさせておきたいことがあります。
推し活は、不健全なものではありません。財務省の資料によれば、15〜79歳の3人に1人が推しを持ち、20代女性では45%にのぼります。特別なことでも、偏ったことでもありません。
第一生命経済研究所は、推し活が寄付と同様に、利他性に基づく満足感を通じて、人々のウェルビーイングに寄与しうると指摘している。
だから、いま苦しいのは、入れ込みすぎたからでも、依存していたからでもありません。大切なものを失えばつらくなるのは、対象が何であっても同じです。つらさの大きさは、それだけ大事にしてきたことの裏返しです。
自分の気持ちに説明をつける必要はありません。
回復はまっすぐ進まない
否認、怒り、抑うつ、受容——喪失の心理を段階に分けて説明する図を、どこかで見たことがあるかもしれません。
ただ、こうした感覚が決まった順番で進んでいくという考え方は、学術的な裏づけが乏しいことが知られています。順番どおりに進んでいない自分を、遅れていると感じる必要はありません。
実際に多くの人が語るのは、もっとばらばらな進み方です。
- 何も感じない時期が、しばらく続く
- 平気だと思っていたのに、関係ない曲で急に泣く
- 何ヶ月も経ってから、いちばんこたえる日が来る
- 良くなったと思った翌週に、また戻る
回復はまっすぐ進みません。 落ち着いたと思った頃に戻ってくることがありますが、それは後戻りではありません。 波の底に何度か行くこと自体が、過程の一部です。
よく語られる感覚
同じような時期を過ごした人が語る感覚を、いくつかの側面に分けてみます。診断のリストではありません。当てはまるものがあれば「自分だけではないらしい」と思ってもらえれば十分です。
体に出ること
自分では選べない
- ・眠りが浅い、または寝すぎる
- ・食欲が変わる
- ・だるさが抜けない
- ・急に涙が出る
気持ちに出ること
波がある
- ・まだ実感がわかない
- ・誰かに怒りが湧く
- ・何をしても楽しくない
- ・同じ場面を何度も思い返す
生活に出ること
時間の空白
- ・時間の使い方が分からない
- ・SNSを開けない、または閉じられない
- ・予定を入れる気にならない
- ・好きだった曲を再生できない
どれも当てはまらない人もいます。淡々としている自分に戸惑うこともありますが、感じ方が薄いことは、大事に思っていなかったことを意味しません。
いま、しなくていいこと
何かを始めるより先に、しなくていいことのほうを書きます。渦中でいちばん体力を奪うのは、やらなきゃと思っていることのほうだからです。
いまは、しなくて構いません
- 急いで新しい推しを探すこと
- 他の人の立ち直りの速さと、自分を比べること
- 「いつまでに元気になる」と期限を決めること
- 気持ちを整理して、人に説明できる状態にすること
- グッズや写真を処分すること、あるいは無理に見返すこと
- 前を向くこと
特に最後の一つです。前を向く日は、来るときには勝手に来ます。いま無理に向きを変えなくても、それで何かを失うことはありません。
SNSを見て、もう切り替えている人を見つけてしまうこともあると思います。切り替えの速さは、その人の気持ちの深さとは関係がありません。見るのがつらければ、しばらく閉じてしまって構いません。
少しだけ効くかもしれないこと
そのうえで、無理のない範囲でできることをいくつか書きます。全部でなくていいですし、一つも合わなくても構いません。
やれそうなものが一つあれば十分です
- 食べる・寝る・湯につかる。この3つだけは、可能な範囲で
- 同じ気持ちの人と、一言だけやりとりする
- 予定を入れるなら、途中で帰れるものにしておく
- 一日のうち数十分だけ、別のことをしている時間を作る
- できなかった日を、失敗として数えない
このなかで、他と少し性質が違うのが2番目です。
説明しなくても通じる相手と、短くやりとりする。それだけで、気持ちが軽くなるわけではありませんが、一人で抱えている状態からは少し離れられます。 内容は近況でも、思い出話でも、関係のない雑談でも構いません。
残っているもの
推しがいなくなっても、そこで出会った人との関係は、自動的には消えません。
5,055人を2年間追跡した研究では、抑うつ・年齢・性別・経済状況・健康状態などを統制したうえで、すでに抑うつ状態にある人において、所属している集団が1つ増えると、その後の再発リスクが24%低下し、3つでは63%低下したことが報告されています。ここで言う集団に、ファンコミュニティは問題なく当てはまります。
ただし、条件があります。アイデンティティに関する研究では、所属が支えとして働くのは、他の人からもそこにいると認識されている場合だと指摘されています。見ているだけの状態では、この効果の対象になりません。
そして、何もしないと自然に薄れます。 会う理由がなくなるからです。
いま無理に人と会う必要はありません。ただ、完全に切れてしまう前に、一言送っておくくらいはできるかもしれません。「またそのうち」だけでも、線は残ります。界隈に知り合いがいない場合の入口については、推し活仲間は居場所になるという記事に書きました。
次に「その日」が来るときのために
これは、いま読まなくていい話です。少し落ち着いてから思い出してもらえれば十分です。
推し活には、日付が先に分かる出来事がいくつもあります。卒業、活動休止、契約満了、移籍、ラストライブ。今回のことが不意打ちだったとしても、次は事前に分かることがあります。
つらい話ですが、裏を返せば、そのつど備えられるということでもあります。今回、何が助けになって何がしんどかったかを覚えておけば、次はもう少し楽に迎えられます。具体的な備え方は推しの卒業発表に備える記事に、考え方そのものは心が揺れる日に備えておくという記事にまとめています。
ココロバランスは、揺れそうな日を先に登録しておいて、その日までに支えを厚くする準備を提案するアプリです。毎日の記録は求めません。点検は週に1回30秒です。支えを何本持っているかを数えて評価することもしません。数えることに意味がないことは「心の分散投資」を検証した記事で整理したとおりです。大事なのは、その日に手を伸ばせるものが、一つ手元にあるかだけです。
つらさが強いときは
一人で抱えないでください
食事や睡眠がとれない状態が続くとき、日常生活が立ち行かないとき、また「消えてしまいたい」という考えが浮かぶときは、一人で抱えずに専門機関にご相談ください。厚生労働省のこころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)、よりそいホットライン(0120-279-338)、相談先をまとめたまもろうよ こころから探せます。話す相手は、推しのことを知らない人でも構いません。事情が伝わらなくても、いまつらいという事実だけで、相談していい理由になります。
参考文献
- Cruwys, T., Dingle, G. A., Haslam, C., et al. (2013). Social group memberships protect against future depression, alleviate depression symptoms and prevent depression relapse. Social Science & Medicine, 98, 179-186.
- Thoits, P. A. Identity accumulation, verification, and well-being. Handbook of the Sociology of Health, Illness, and Healing.
- 財務省『ファイナンス』2025年11月号 経済トレンド137. 推し活〜若年層を中心に急成長する消費形態〜
- 厚生労働省. こころもメンテしよう:知ることからはじめよう
よくある質問
推しロスは、どのくらいで治りますか?expand_more
決まった期間はありません。数週間で日常の感覚が戻る人もいれば、半年以上ゆるやかに続く人もいます。共通しているのは、まっすぐ良くなっていくわけではないという点です。落ち着いたと思った頃に急に戻ってくることがありますが、それは後戻りではなく、途中でふつうに起きることです。
新しい推しを作ったほうが、早く立ち直れますか?expand_more
急いで探す必要はありません。無理に別の対象を用意しても、前の推しと比べてしまってかえってつらくなることがあります。次に何かを好きになる日は、来るときには自然に来ます。それまでのあいだ、空白のままにしておいて構いません。
何も楽しくないし、やる気が出ません。おかしいのでしょうか?expand_more
大きな時間とエネルギーを注いでいた対象がなくなったあと、無気力な状態が続くのは自然な反動です。ただし、食事や睡眠がとれない状態が長く続く場合や、消えてしまいたいという考えが浮かぶ場合は、自然な反応の範囲を超えている可能性があります。その場合は相談窓口や医療機関を頼ってください。
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ココロバランス編集部
心理学・行動科学の公開研究や書籍を参照しながら、日常で実践しやすいセルフケアの知恵をまとめています。強い不調が続く場合は、自己判断だけに頼らず医療機関や専門家にご相談ください。