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推しの話を、説明なしでできる相手。「今日の衣装が」「あのMCが」だけで通じる相手。それがどれだけ貴重かは、周りに一人もいない時期を過ごしたことがあれば分かると思います。
一方で、一人で静かに推すスタイルを選んでいる人もいます。そのほうが自分のペースを守れる、という感覚もよく分かります。この記事は「増やしたい」と思っている人向けのもので、いまのやり方を変えるべきだという話ではありません。
ファンコミュニティは、研究でいう「居場所」に当たる
心の支えについて調べていくと、意外なところに行き着きます。効果がはっきり確認されているのは、継続的に所属していて、他の人からもそこにいると認識されている集団を持っていることでした。
5,055人を2年間追跡した研究では、抑うつ・年齢・性別・経済状況などを統制したうえで、すでに抑うつ状態にある人が所属する集団を1つ増やすと、その後の再発リスクが24%低下していました。孤独感と抑うつを抱える15〜25歳を対象にした臨床試験でも、社会的なつながりを作り直すプログラムが認知行動療法と同等の効果を示しています。
ここで言う「集団」に、ファンコミュニティは問題なく当てはまります。 職場やサークルと同じ枠です。趣味だから格下、ということはありません。
ただし、条件が一つあります
アイデンティティに関する研究では、所属が心の支えになるのは他の人からも承認されている場合に限られると報告されています。自分だけが「ここが自分の居場所だ」と思っている状態では、支えとしては働きにくいということです。つまり、見ているだけ・追いかけているだけでは、この効果の対象になりません。
「知り合い」から「居場所」に変わる境目
では、どこからが居場所なのか。目安になるのは、次のような状態です。
居場所に近い
相手からも認識されている
- ・名前(またはHN)を覚えられている
- ・次に会う予定がなんとなくある
- ・自分が来なかったら気づかれる
- ・自分から話しかけなくても話が始まる
まだ手前
一方向で止まっている
- ・フォローしているだけ
- ・現場で見かけるけど話さない
- ・毎回はじめましてになる
- ・自分から送らないと会話が起きない
右側が悪いという話ではありません。ただ、心の支えとして働くのは左側のほうだ、というのが研究から言えることです。
そして左右を分けるのは、熱量でも回数でもなく、繰り返し同じ相手と接触しているかです。年に1回10人と会うより、同じ3人と月1回会うほうが「認識される」に近づきます。
どこで出会うか
現実的な入口はそれほど多くありません。自分に合いそうなものを1つ選べば十分です。
現場
いちばん自然
- ・隣の席の人と一言
- ・物販・グッズ交換の列
- ・遠征先の移動や宿
- ・終演後の感想を言い合う流れ
SNS
接点を作りやすい
- ・感想を書いている人に反応する
- ・同じ現場の投稿を探す
- ・交換・譲渡のやりとりから
- ・スペースや通話に参加してみる
その他
界隈の外側
- ・ファン主催のオンライン企画
- ・誕生日祝いのイベント
- ・聖地巡礼・カフェ
- ・二次創作・考察のコミュニティ
最初の一言は、感想でいい
「今日のあれ、よかったですね」で十分です。自己紹介も、フォロー数の確認もいりません。共通の対象がある関係の良いところは、何を話すかを最初から相手と共有できていることです。
安全面だけは、先に決めておく
楽しい話ばかりではないので、ここだけははっきり書いておきます。
関係が浅いうちは避けること
- 金銭の貸し借り、立て替え
- チケットの取引(とくに前払い)
- 住所・勤務先・学校名などの個人情報
- 二人きりで、人の少ない場所や個室で会うこと
最初は会場内や人の多い場所で、短時間から。合わないと感じたら距離を取って構いませんし、その判断に説明は要りません。
つながることの、しんどい側面
正直に書いておくと、界隈に入ることで増えるつらさもあります。
課金額や現場の回数を比べてしまう。担降りしたときに気まずくなる。誰かの当落で空気が変わる。こうした比較のしんどさは、他人比較のクセについて書いた記事で扱っている構造とほぼ同じです。
対処はシンプルで、合わない場所からは離れていいということに尽きます。居場所は1つに絞る必要がありません。むしろ、複数あるほうが「ここが駄目でも他がある」という状態を作れます。離れることは、推しを裏切ることでもありません。
推しがいなくなっても残るもの
最後に、いちばん実感しにくいけれど大きい点を書いておきます。
卒業や活動休止で対象がいなくなっても、そこで出会った人との関係は自動的には消えません。 ただし、何もしないと自然に薄れます。会う理由がなくなるからです。
だからこそ、その日が来る前に関係を作っておくことに意味があります。この話は推しの卒業発表に備える記事で詳しく書きました。
ココロバランスでは、ファンコミュニティを居場所として登録できます。趣味の欄ではなく、職場や家族と同じ枠です。支えを何本持っているかを数えて評価することはしません。数えることに意味がないことは「心の分散投資」を検証した記事で整理したとおりです。
つらさが続くとき
孤独感や気分の落ち込みが長く続く場合は、一人で抱えずに専門機関にご相談ください。厚生労働省のこころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)や、相談先をまとめたまもろうよ こころから探すことができます。
参考文献
- Cruwys, T., Dingle, G. A., Haslam, C., et al. (2013). Social group memberships protect against future depression, alleviate depression symptoms and prevent depression relapse. Social Science & Medicine, 98, 179-186.
- Haslam, C., Cruwys, T., Chang, M. X-L., et al. (2022). Groups 4 Health versus cognitive behavioural therapy for depression and loneliness in young people: randomised phase 3 non-inferiority trial. The British Journal of Psychiatry.
- Thoits, P. A. Identity accumulation, verification, and well-being. Handbook of the Sociology of Health, Illness, and Healing.
- 財務省『ファイナンス』2025年11月号 経済トレンド137. 推し活〜若年層を中心に急成長する消費形態〜
よくある質問
オタク友達がいないと、推し活は楽しめませんか?expand_more
そんなことはありません。一人で静かに推すことを選んでいる人はたくさんいますし、そのほうが自分のペースを守れるという人もいます。この記事は「増やしたい」と思っている人に向けたもので、いまのスタイルを変えるべきだという話ではありません。
同担拒否なので、界隈で友達を作りにくいです。expand_more
同担である必要はありません。同じグループの別メンバーを推している人、他界隈だけど現場に行く感覚が近い人、二次創作や遠征の話ができる人など、接点の作り方はいくつもあります。共通しているのは「その話が通じること」であって、推しが同じかどうかではありません。
SNSで知り合った人と実際に会うのが不安です。expand_more
不安なままで構いません。最初は現場の会場内や、人の多い場所での短時間から始めるのが安全です。金銭のやりとり、チケットの取引、住所や勤務先などの個人情報は、関係が浅いうちは避けてください。合わないと感じたら距離を取っていいですし、その判断に説明は要りません。
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ココロバランス編集部
心理学・行動科学の公開研究や書籍を参照しながら、日常で実践しやすいセルフケアの知恵をまとめています。強い不調が続く場合は、自己判断だけに頼らず医療機関や専門家にご相談ください。