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発表を見た瞬間のことは、たぶんよく覚えていると思います。文字を読んだのに意味が入ってこなくて、何度も読み返して、それでも実感がわかない。あの感じです。
そして厄介なのは、その日はまだ先だということです。もう終わったことなら悲しむだけで済むのに、これから来ると分かっている。この記事は、その「発表から当日まで」の時間をどう過ごすかについて書いています。
発表から当日までが、いちばん長い
まだ起きていない出来事に対して、いまから苦しくなる。これは予期不安と呼ばれる、ごくふつうの反応です。厚生労働省の資料でも、大事な場面の前に強い緊張や不安が出ることは当たり前の反応だと説明されています。
おかしくなったわけでも、大げさなわけでもありません。そして、この期間には一つだけ良いことがあります。準備ができることです。
当日になってから「どうすれば楽になるか」を考えるのは、いちばん難しいタイミングで、いちばん難しい作業を自分に課すことになります。いまはまだ、少しだけ考える余力があります。
いま感じているのは、失うことへの自然な反応
先に一つ、はっきりさせておきたいことがあります。
推し活は、決して不健全なものではありません。財務省の資料によれば、15〜79歳の3人に1人が推しを持ち、20代女性では45%にのぼります。第一生命経済研究所は、推し活が寄付と似た利他的な満足感を通じてウェルビーイングに寄与しうると指摘しています。
自分を責める必要はありません
「一つのものに入れ込みすぎた」「依存していた」——そう自分を責める必要はありません。大切なものを失えばつらくなるのは、対象が何であっても同じです。つらさの大きさは、それだけ大事にしてきたことの裏返しです。
いま起きているのは、大切なものがなくなると分かったときの、自然な反応です。それ以上でも以下でもありません。
当日までにやっておくと、当日の自分が助かること
やることは多くありません。日付が決まっているぶん、先回りできます。
- 1
当日の予定を、先に決めておく
一人で過ごすのか、誰かと一緒にいるのか。当日の朝に決めようとすると、たいてい決められません。いま決めて、それ以上考えないようにします。
- 2
翌日を、できるだけ空けておく
当日より翌日のほうがこたえることがあります。大事な予定を入れず、何もできなくていい日にしておくと安心です。
- 3
同じ気持ちの人と、連絡が取れる状態にしておく
当日に一から探すのは難しいので、いまのうちに一言送っておきます。「その日、ちょっと話せる?」だけで十分です。
- 4
見返すものを、いま集めておく
写真、円盤、印象に残っている言葉。当日に探しはじめると、それ自体がしんどい作業になります。
いちばん効くのは、同じ場所にいる人
もし一つだけ選ぶとしたら、3番目です。理由があります。
5,055人を2年間追跡した研究では、抑うつ・年齢・性別・経済状況などを統制したうえで、継続的に所属している集団を持っていることが、その後の心の落ち込みに対して保護的に働くことが報告されています(すでに抑うつ状態にある人において、所属集団を1つ増やすと再発リスクが24%低下)。
ここで大事なのは、推しそのものより、推しを通じて出会った人たちのほうが「居場所」に近いということです。
残るもの
卒業してもなくならない
- ・同担・界隈の友人
- ・現場で会っていた人
- ・オンラインの通話グループ
- ・その界隈で身についた知識や感覚
変わるもの
形が変わっていく
- ・新しい供給を待つ時間
- ・現場に行く予定
- ・追いかける対象としての存在
推しがいなくなっても、そこで出会った人との関係は自動的には消えません。ただし、何もしないと自然に薄れます。 会う理由がなくなるからです。
だからこそ、当日までのあいだに一言送っておくことに意味があります。「卒業したら会わなくなるのかな」と思っている人は、たいてい向こうにもいます。
いま界隈に知り合いがいない場合の入口については、推し活仲間のつくり方をまとめた記事で具体的に書いています。
当日の過ごし方
当日の自分は、いつもより視野が狭くなっています。その状態で何かを判断しなくて済むよう、先に短いリストを書いておきます。
当日のリストの例
- 朝は無理に早起きしない
- 配信/現場が終わったら、すぐSNSを閉じる
- 21時にAさんに「終わった」とだけ送る
- 泣きたくなったら泣く。人前でなくていい
- 何もできなかったら、そのまま寝ていい
最後の1行のような、できなくてもいいという許可を自分で書いておくと、リストがノルマに変わるのを防げます。当日はこれを読んで、書いてあることをするだけです。
過ぎたあとに起きること
当日を越えたあと、しばらく無気力な状態が続くことがあります。何をしても楽しくない、時間の使い方が分からない、といった感覚です。
これは、それまで大きな時間とエネルギーを注いでいた対象がなくなったあとに起きる、自然な反動です。回復はまっすぐ進みません。落ち着いたと思った頃に急に戻ってくることもあります。それは後戻りではなく、途中で起きるふつうのことです。
少し落ち着いてきたら、一つだけ思い出してみてください。
あの日、実際に何が助けになったか。
反省会ではありません。次に似た日が来たときに、また一から探さずに済むようにするための記録です。「Aさんに連絡したのが良かった」「人と話すのはむしろしんどかった」——どちらも、次に使える情報です。
次に「その日」が来るときのために
推し活には、日付が先に分かる出来事がいくつもあります。卒業、活動休止、契約満了、移籍、ラストライブ、ツアーの千秋楽。
つらいことですが、これは裏を返せば、毎回そのつど備えられるということでもあります。今回やってみて効いたことを覚えておけば、次はもう少し楽に迎えられます。この考え方については心が揺れる日に備えておくという記事で詳しく書きました。
支えを何本持っているかを数えて評価するような話ではありません。数えることに意味がないことは「心の分散投資」を検証した記事で整理したとおりです。大事なのは、その日に手を伸ばせるものが、手元に一つあるかだけです。
つらさが強いとき
食事や睡眠がとれない状態が続くとき、また「消えてしまいたい」という考えが浮かぶときは、一人で抱えずに専門機関にご相談ください。厚生労働省のこころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)、よりそいホットライン(0120-279-338)、相談先をまとめたまもろうよ こころから探せます。話す相手は、事情を知らない人でも構いません。
参考文献
- Cruwys, T., Dingle, G. A., Haslam, C., et al. (2013). Social group memberships protect against future depression, alleviate depression symptoms and prevent depression relapse. Social Science & Medicine, 98, 179-186.
- 財務省『ファイナンス』2025年11月号 経済トレンド137. 推し活〜若年層を中心に急成長する消費形態〜
- 厚生労働省. こころもメンテしよう:不安障害について
- 厚生労働省. こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
よくある質問
推しロスは、どのくらいで回復しますか?expand_more
決まった期間はありません。数週間で日常に戻る人もいれば、半年以上ゆるやかに続く人もいます。共通しているのは、まっすぐ良くなっていくわけではなく、落ち着いたと思った頃に急に戻ってくることがある、という点です。それは後戻りではなく、回復の途中にふつうに起きることです。
「たかがアイドルで」と思われそうで、人に言えません。expand_more
無理に説明できる相手を探す必要はありません。同じ対象を追っている人たちは、説明なしで通じる数少ない相手です。周囲に理解されないことと、あなたの気持ちが軽いこととは、まったく別の話です。
新しい推しを作ったほうが早く立ち直れますか?expand_more
急いで探す必要はありません。無理に別の対象を用意しても、比べてしまってかえってつらくなることがあります。もし何かを増やすとしたら、対象そのものより、そこで出会った人との関係を保っておくほうが、長い目では支えになりやすいことが研究から示されています。
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ココロバランス編集部
心理学・行動科学の公開研究や書籍を参照しながら、日常で実践しやすいセルフケアの知恵をまとめています。強い不調が続く場合は、自己判断だけに頼らず医療機関や専門家にご相談ください。