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ココロバランス
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「心の分散投資」は本当に効くのか?研究が示す“支えを増やす”の中身

目次

「支えを一つに絞らず、複数に分散させておく」——メンタルヘルスの文脈でよく語られる考え方です。投資のポートフォリオになぞらえたこの比喩は直感的で分かりやすく、私たち自身もアプリの出発点にしていました。

ただ、根拠とされてきた研究をたどっていくと、話はもう少し込み入っています。この記事では、その分散の考え方がどこまで支持されているのかを確かめたうえで、では実際には何が効いているのかを整理します。

「自己複雑性」理論と、その後に起きたこと

分散の話の根拠としてよく引かれるのが、心理学者リンヴィルが1987年に提唱した「自己複雑性理論」です。自分を構成する側面(役割・関係・活動)を多く持つ人ほど、そのうち一つで嫌なことが起きても心全体への影響が小さくて済む、という仮説でした。

魅力的な仮説でしたが、その後の検証はあまり味方をしませんでした。同じ設計で追試した複数の研究が緩衝効果を再現できず、2002年に発表された総説・研究統合では、次のように整理されています。

自己複雑性は well-being と負の方向に、しかし弱く相関しており、研究間のばらつきも大きい。ストレス緩衝仮説を支持する結果は、ほとんど見出されなかった。

出典:Rafaeli-Mor & Steinberg (2002), Personality and Social Psychology Reviewopen_in_new

さらに、自己複雑性が低いことの利点を報告した研究もあります。つまり「側面をたくさん持つほど強くなる」という一般化は、現時点では言い切れません。

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この記事を書き直した理由

この記事は当初、自己複雑性理論を根拠に「心の分散投資」を説明していました。上記の経緯を確認したため、根拠を差し替えて全面的に書き直しています。

では、何が効いているのか

同じ「支えを増やす」でも、対象を社会的な集団への所属に限定すると、結果はまったく違って見えてきます。

5,055人を2年間追跡した縦断研究では、ベースラインの抑うつ・年齢・性別・経済状況・健康状態などを統制したうえで、所属する集団の数と、その後うつを再び経験するリスクとの関係が調べられました。

すでに抑うつ状態にある人において、所属集団を増やしたときの再発リスクの低下(Cruwys et al., 2013):1つ増やす 24%、3つ増やす 63%

すでに抑うつ状態にある人において、所属する集団を1つ増やすとその後の再発リスクは24%、3つ増やすと63%低下していました。 効果は、落ち込んでいない人よりも落ち込んでいる人において強く出ています。

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数字を受け取るときの注意

この24%・63%という数字は「すでに抑うつ状態にある人において」観察されたものです。誰にでもそのまま当てはまる約束ではありませんし、「3つ作らなければいけない」という意味でもありません。

介入研究でも近い結果が出ています。孤独感と臨床的に意味のある抑うつ症状を抱える15〜25歳174人を対象に、社会的なつながりを作り直すプログラムと認知行動療法を比較した試験では、抑うつの改善は両者で同等(非劣性)、孤独感についてはむしろ前者がやや上回りました。

ストレスに効いているのは「分散」という抽象的な操作ではなく、「所属」という具体的な出来事だった、というのが今のところ最も確からしい理解です。

「支え」なら何でもいいわけではない

もう一つ、見落とせない条件があります。アイデンティティの蓄積に関する研究群が示しているのは、次のことです。

複数の役割やアイデンティティを持つことが well-being を高めるのは、それらが他の人から承認・確認されている場合に限られる。承認されていないアイデンティティを積み上げると、むしろ well-being は下がる。

自分だけが「ここが自分の居場所だ」と思っている状態は、支えとしては数えづらいということです。確かめるべきは数ではなく、相手の側からも、あなたがそこにいる人として認識されているか——そちらのほうです。

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居場所

継続的に所属している集団

  • 職場のチーム
  • サークル・部活
  • 推しのファンコミュニティ
  • 家族
  • 通い慣れた店
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関係

特定の相手との関係

  • パートナー
  • 親友
  • 気の合う同僚
  • きょうだい
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習慣

一人で完結する活動

  • 睡眠
  • 運動
  • 読書
  • ゲーム
  • 一人の時間

睡眠も運動も大切。ただし性質が違う

上の分類で言うと、睡眠・運動・読書などは「習慣」です。心身の土台としては欠かせませんが、他の人から「あなたの居場所」として認識されることは原理的にありません。研究で効果が確認されているタイプの支えとは、別枠で考えたほうが混乱がありません。

大切さの順位づけではなく、性質の違いとして捉えてください。習慣は自分のコンディションを整えるもの、居場所と関係は揺れたときに受け止めてくれるもの。役割が違うので、片方でもう片方の代わりにはなりません。

いま自分に何があるかを確かめる

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書き出してみる

思いつくままに、名前を挙げてみてください。判定も採点もしません。

  1. 週に一度は顔を合わせる場所・集団は?
  2. 落ち込んだ日に、状況を説明しなくても察してくれる相手は?
  3. そこにいる人たちは、あなたを「いつもいる人」として認識していそうですか?

書き出すと、いまの自分が何に支えられているかが見えてきます。ここで大事なのは、少なかったとしてもそれを問題として扱わないことです。仕事が中心の時期も、推し活が中心の時期もあります。それ自体は失敗ではありません。

増やすとしたら、どこから

もし「もう一つあってもいいかもしれない」と思ったときは、ゼロから新しい場所を探すより、すでに接点があるものを居場所に育てるほうが現実的です。

  1. 1

    すでに月1回以上行っている場所を思い出す

    ジム、行きつけの店、オンラインのコミュニティ。新規開拓より確実です。

  2. 2

    そこで名前を覚えられる状態を目指す

    回数を増やすより、同じ時間帯・同じ相手に繰り返し会うほうが「認識される」に近づきます。

  3. 3

    一度だけ、自分から声をかける

    内容は何でもかまいません。一方通行を双方向に変える一歩です。

  4. 4

    揺れそうな日が来る前に確かめておく

    つらい日にゼロから探すのは難しいので、余裕のあるときに手元にあるものを確認しておきます。

人間関係の距離感そのものがしんどいときは、「期待しすぎない」技術の記事もあわせて読んでみてください。ストレスとの日常的な付き合い方についてはストレス管理の基本で整理しています。

ココロバランスの立場

私たちは「支えが何本あるか」を数えて評価するアプリを作っていません。数えても、そこには意味がないことが分かったからです。

代わりに扱っているのは、あなたが揺れそうな日を先に登録しておき、その日までに手元の支えを確かめておくことです。週に一度、30秒の点検だけ。毎日記録する必要はありません。

参考文献

info

つらさが続くとき

気分の落ち込みや不安が長く続く場合は、専門機関にご相談ください。厚生労働省のこころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)や、相談先をまとめたまもろうよ こころから探すことができます。

よくある質問

「心の分散投資」という考え方は間違いなのですか?expand_more

入口としての比喩は分かりやすいのですが、「支えの数を増やせばストレスに強くなる」という一般化された形では、研究の裏づけが十分ではありません。研究で効果が確認されているのは、数そのものではなく「自分にとって意味があり、かつ相手からも自分の居場所として認識されている集団に属していること」です。

支えはいくつあればいいのでしょうか?expand_more

「何本必要」という基準はありません。研究で報告されているのは、すでに気持ちが落ち込んでいる人が所属する集団を1つ増やしたときの変化であって、達成すべきノルマではありません。いまあるものを確かめて、増やせそうなときに1つ足す——それで十分です。

睡眠や筋トレのような一人でやることは、支えに数えられませんか?expand_more

大切さは変わりませんが、性質が違います。一人で完結する活動は他の人から「あなたの居場所」として認識されることがないため、研究で効果が確認されているタイプの支えとは別のものです。この記事では前者を「習慣」、後者を「柱」と呼び分けています。

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ココロバランス編集部

心理学・行動科学の公開研究や書籍を参照しながら、日常で実践しやすいセルフケアの知恵をまとめています。強い不調が続く場合は、自己判断だけに頼らず医療機関や専門家にご相談ください。

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