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チケットは手元にあって、日付はもう動かない。その日が近づいてくるほど、平常心でいられなくなる——この記事は、そういう時期に読まれることを想定して書いています。
やることはそれほど多くありません。ただ、置き場所が少しずれています。当日をどう過ごすかより先に、前日にどこまで決めておくかのほうが、実際には効いてきます。
当日の自分は、いまの自分より判断力が落ちている
大事な場面の前に強い緊張や不安が出るのは、当たり前の反応です。厚生労働省の資料でも、そのように説明されています。おかしくなったわけでも、気にしすぎでもありません。
そのうえで、押さえておきたいことが一つあります。当日の自分は、判断する係には向いていないということです。
感情が大きく動いている最中は、視野が狭くなります。「このあとどうするか」「誰に連絡するか」「どの電車に乗るか」をその場で組み立てるのは、想像以上に負担です。終演直後にホームで立ち尽くしてしまった、という話がよく出るのは、根性の問題ではありません。
だから、当日の判断を前日の自分が肩代わりしておきます。当日の自分の仕事は、決めることではなく、決まっていることをなぞるだけにしておく。この考え方そのものは、心が揺れる日に備えておくという記事にまとめてあります。
前日までに決めておくこと
決めるのは、感情の話ではなく、段取りの話です。
- 1
帰りの移動手段を、余裕のあるほうに寄せる
夜行バスや深夜の乗り継ぎは、金額の面では合理的でも、翌日にそのまま響きます。終演後に静かに座っていられる手段を選べるなら、そちらのほうが後が楽です。
- 2
遠征なら、宿を取れるか検討する
終演から移動までの間に、一度部屋で座れる時間があるかどうかで、その夜の消耗がかなり変わります。予算が厳しければ、せめて出発時刻を1本遅らせておくだけでも違います。
- 3
翌日に、重い予定を置かない
有給が取れるなら取っておく。取れないなら、大事な会議や締切、判断が必要な用事を翌日から動かせないか確認しておきます。
- 4
終演直後にSNSを開くかどうかを、先に決める
開く・開かないのどちらでも構いません。決めておくこと自体が目的です。判断を、いちばん揺れている時間帯から外しておきます。
- 5
終わったあとに一言送れる相手に、先に声をかけておく
「その日の夜、ちょっと話せるかも」と伝えておくだけで十分です。当日に一から相手を探すのは、かなり難しくなります。
5番目は、当日ではなく前日のうちにやっておく意味が大きい項目です。理由は後半で触れます。
前日の夜にやること
決めた内容を、スマホのメモに5行くらいで書いておきます。文章にしなくて構いません。「帰りは○時の電車」「SNSは今日は開かない」「Aさんに終わったら送る」——それだけで、当日の自分の判断がかなり減ります。
なお、前日は眠れないことがよくあります。眠れないまま朝を迎えても、その日一日は意外ともつものです。横になって目を閉じているだけでも足りている、と考えておくほうが楽かもしれません。
荷物に入れておくもの
泣く前提で用意して構いません。そのほうが当日、余計なことを考えずに済みます。
泣いたあとのため
使う前提で多めに
- ・ハンカチとタオル(別々に)
- ・目薬
- ・マスク
- ・コンタクトの替え、または眼鏡
- ・汗拭きシート
体をもたせるもの
食べられなくても持つ
- ・飲み物(会場でぬるくなる前提で)
- ・一口で食べられる軽食
- ・常備薬・頭痛薬
- ・羽織るもの(会場は冷えることが多い)
帰り道のため
終演後に困るもの
- ・モバイルバッテリーとケーブル
- ・交通系ICのチャージ確認
- ・宿・バスの予約画面のスクリーンショット
- ・イヤホン
会場は空調が効いていて冷えることが多く、泣いたあとは体温が下がった感じになります。羽織るものは、荷物が増えても入れておくと効きます。
当日、開演までの過ごし方
朝、起きた瞬間から実感がわいてしんどい、ということがあります。逆に、驚くほど何も感じないまま会場に着くこともあります。どちらでも問題ありません。
開演までのあいだ
- 予定を詰め込みすぎない。物販と食事だけで一日は埋まります
- 食べられなくても、水分だけは意識して取っておく
- 「ちゃんと感じなきゃ」と思わなくていい。感じ方は当日の自分に任せる
- 泣きたくなったら、開演前でも泣いて構いません
- 何もできなかったら、そのまま座っていていい
最後の1行のような、できなくてもいいという許可を自分で書き添えておくと、用意したプランがノルマに変わるのを防げます。ここに並んでいるのは宿題ではなく、迷ったときに見るためのメモです。
会場に着いたら、荷物の中で終演後に使うもの(タオル、モバイルバッテリー)を取り出しやすい位置に移しておくと、後で助かります。
終演直後の30分
ここが、いちばん準備されていない時間帯です。誰も教えてくれないまま、いきなり来ます。
照明がついて、アナウンスが流れて、周りが動きはじめる。そこから会場を出るまでの数十分は、感情が最大まで振れているのに、現実的な行動(荷物をまとめる、動線に従って歩く、電車に乗る)を要求される時間です。この落差がきついのであって、受け止め方の問題ではありません。
前日に決めておくのは、次の3つの分かれ道です。
一人になる
誰とも話さない選択
- ・会場を出たらまっすぐ移動する
- ・駅ではなく、少し歩いた場所で座る
- ・誰にも返信しないと決めておく
誰かと話す
言葉にならなくていい
- ・同行者と一緒にいる時間を取る
- ・現場の知り合いと少し話す
- ・内容がなくていい。感想をまとめる必要はない
SNSをどうするか
開く・開かないを先に決める
- ・開くなら、時間だけ決めておく
- ・開かないなら、通知を切っておく
- ・その場で書き込まない、と決めるのもあり
どれが正解ということはありません。人と話すことでほどける人もいれば、話しかけられること自体が負担になる人もいます。大事なのは、どちらが自分に合うかを前日の自分が決めておくことです。同行者がいるなら、「終わったらすぐ一人になりたいかも」と先に伝えておくと当日が楽になります。
SNSも同じで、開いてはいけないという話ではありません。同じ場所にいた人の言葉に救われることは実際にあります。ただ、終演直後は言葉が刺さりやすい状態でもあるので、開くかどうかは感情が動く前に決めておくほうが安全です。
帰り道と、その夜
移動中に急に来ることがあります。電車で、バスで、ホテルの部屋で。人前で泣きたくない場合は、イヤホンをして窓の外を見ているだけで、たいていはやり過ごせます。
その夜にやらなくていいことを、いくつか挙げておきます。
- 感想をまとめること。言葉になるのは、たいてい何日か経ってからです
- 写真や動画を整理すること。データは逃げません
- 誰かの投稿と自分の感じ方を比べること
- 「もっとこうすればよかった」を検討すること
食事は、食べられそうなら軽く食べ、無理そうなら水分だけでも構いません。風呂は入れたら入る、無理なら顔を洗って寝る。眠れなくても、横になっているだけで体は少し休まります。
家に着いたことを誰かに一言送るなら、この時間帯です。前日に声をかけておいた相手がいれば、「終わった」の3文字で通じます。
翌日
ここも、想像されていない空白地帯です。当日より翌日のほうがこたえた、という話は珍しくありません。
理由はいくつか重なります。前日からの緊張が切れること、泣いたあとの身体的な消耗、遠征なら移動の疲れ、そして次に向かうものがもう予定表にないという感覚。楽しみにしていた予定がなくなると、時間の使い方そのものが分からなくなります。
だから、翌日にはできるだけ何も入れないでおきます。休みが取れているなら、予定を作らないままにしておく。仕事や学校がある場合も、重い判断が必要なものは前後にずらせないか、前日のうちに見ておきます。
翌日にやらなくていいこと
無理に感想を書きまとめる必要はありません。「自分の中で区切りをつけないと」と急ぐ必要もありません。何も感じない日が数日続くこともありますが、それは冷めたわけではなく、大きなことがあったあとに起きるふつうの反動です。
このあとしばらく続く時期のことは、推しロスの渦中にいる人へ向けた記事で別に扱っています。回復はまっすぐ進みません。落ち着いたと思った頃に急に戻ってくることもありますが、それは後戻りではなく途中で起きることです。
一つだけ書き添えておくと、いまのつらさの大きさは、それだけ長く大事にしてきたことの裏返しです。入れ込みすぎたとか、依存していたという話ではありません。財務省の資料によれば、15〜79歳の3人に1人が推しを持ち、20代女性では45%にのぼります。第一生命経済研究所は、推し活が利他性に基づく満足感を通じてウェルビーイングに寄与しうると指摘しています。
一緒にいる人がいることの意味
前日の準備のうち、いちばん後から効いてくるのは、終わったあとに話せる相手を確保しておくことです。
5,055名を2年間追跡した調査では、すでに抑うつ状態にある人において、所属する社会集団が1つ増えることは再発リスクの24%低下と、3つ増えることは63%低下と関連していた。
この数字は、すでに抑うつ状態にある人を対象とした場合のもので、誰にでもそのまま当てはまるわけではありません。ラストライブのあとに落ち込むことは、状態としても別のものです。ただ方向としては参考になります。同じ場所にいた人との関係が残っていることには、それなりの意味があるということです。
推しがいなくなっても、そこで出会った人との関係は自動的には消えません。ただし会う理由がなくなるので、何もしないと自然に薄れていきます。だからこそ、当日までのあいだに一言送っておくことが効いてきます。「終わったら会わなくなるのかな」と思っている人は、たいてい向こう側にもいます。
いま界隈に知り合いがいない場合の入口は、推し活仲間が居場所になるという記事にまとめてあります。無理に増やす必要はまったくありません。
次に「その日」が来るときのために
数日たって少し落ち着いたら、一つだけ思い出してみてください。
あの日、実際に何が助けになったか。
反省会ではありません。「宿を取っておいてよかった」「人と話すのはむしろしんどかった」——どちらも、次に使える情報です。
推し活には、日付が先に分かる出来事がいくつもあります。卒業、活動休止、契約満了、移籍、ツアーの千秋楽。つらいことですが、裏を返せば、そのつど備えられるということでもあります。発表から当日までの過ごし方は、推しの卒業発表に備える記事にまとめてあります。
つらさが強いとき
食事や睡眠がとれない状態が続くとき、また「消えてしまいたい」という考えが浮かぶときは、一人で抱えずに専門機関にご相談ください。厚生労働省のこころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)、よりそいホットライン(0120-279-338)、相談先をまとめたまもろうよ こころから探せます。話す相手は、事情を知らない人でも構いません。
参考文献
- Cruwys, T., Dingle, G. A., Haslam, C., et al. (2013). Social group memberships protect against future depression, alleviate depression symptoms and prevent depression relapse. Social Science & Medicine, 98, 179-186.
- 財務省『ファイナンス』2025年11月号 経済トレンド137. 推し活〜若年層を中心に急成長する消費形態〜
- 厚生労働省. こころもメンテしよう:不安障害について
- 厚生労働省. まもろうよ こころ
よくある質問
当日、泣きすぎてしまいそうで不安です。expand_more
泣くこと自体は困ったことではありません。むしろ、泣く前提で準備しておくほうが当日は楽になります。ハンカチとタオル、目薬、マスク、替えのコンタクトがあれば、たいていのことは足ります。周りを見れば同じ状態の人がたくさんいます。人前で泣きたくない場合は、席を立てるタイミングと、落ち着ける場所(会場外の階段、トイレ、少し離れたベンチ)を先に把握しておくと安心です。
翌日、仕事を休むのはおおげさでしょうか。expand_more
おおげさではありません。遠征なら移動の疲れが残りますし、泣いたあとは頭痛や倦怠感が出ることもあります。体調の面だけ見ても、休む理由としては十分です。休めない場合でも、重い会議や大事な判断が必要な予定を翌日から動かせないか、先に確認しておくと負担が変わります。それも難しければ、その日は最低限だけこなして早く帰る、と決めておくだけでも違います。
終演後にSNSを見ないほうがいいのでしょうか。expand_more
見ないほうがいい、と決まっているわけではありません。同じ会場にいた人の言葉に救われることもあります。ただ、開くかどうかを終演直後の自分に判断させないことがポイントです。前日のうちに「終わったら開く」「今日は開かない」のどちらかを決めておけば、感情が大きく動いている時間帯に選択をしなくて済みます。
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ココロバランス編集部
心理学・行動科学の公開研究や書籍を参照しながら、日常で実践しやすいセルフケアの知恵をまとめています。強い不調が続く場合は、自己判断だけに頼らず医療機関や専門家にご相談ください。