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心のケアについて語られることの多くは、「つらくなってから、どうするか」の話です。深呼吸をする、書き出す、休む——どれも大切ですが、実際にしんどい渦中にいるときは、その選択肢を思い出すことすら難しくなります。
一方で、しんどくなる日はあらかじめ分かっていることが少なくありません。 推しの卒業ライブ。契約更新の面談。合格発表。異動の内示。引っ越しの日。日付が先に決まっているなら、心の準備も先にしておけます。
雨の予報が出ている日に傘を持って出るのと、同じ発想です。
しんどくなる日は、意外と予測できる
まずは、自分にとっての「揺れそうな日」がどんなものかを見てみます。
推し活
日付が公表されるもの
- ・卒業・活動休止の発表日
- ・ラストライブ
- ・契約満了・移籍
- ・現場の翌日
仕事
会社の予定表にあるもの
- ・異動の内示
- ・契約更新・査定面談
- ・繁忙期の入り
- ・最終出社日
- ・転職初日
学び・受験
先に決まっているもの
- ・試験日
- ・合格発表
- ・選考結果の連絡
- ・資格試験の発表
暮らし・関係
生活が変わる日
- ・引っ越し
- ・卒業・離任
- ・遠距離になる日
- ・記念日・命日
3か月先までカレンダーを見てみる
いま手元のカレンダーを開いて、今日から3か月先までをざっと眺めてみてください。「この日はちょっと気が重いな」と感じる日に、心の中で印をつけるだけで十分です。数は1つでも構いません。
思い当たる日がなければ、それはそれで良い状態です。無理にひねり出す必要はありません。
なぜ「事前」でないと間に合わないのか
理由は2つあります。
1つは、しんどいときほど選ぶ力が落ちるからです。 疲れている状態では、新しく何かを考えて決めること自体が負担になります(この仕組みについては「決断疲れ」の正体を解説した記事で詳しく扱っています)。当日になってから「何をすれば楽になるか」を探すのは、いちばん難しいタイミングで、いちばん難しい作業を自分に課すことになります。
もう1つは、記録するだけでは足りないからです。 気分を毎日記録する介入について、2026年に発表された系統的レビュー・メタ分析(ランダム化比較試験8件)は、次のように整理しています。
うつ病・双極性障害を対象とした気分モニタリング介入について、抑うつ症状への効果は統計的に有意ではなかった。気分モニタリングは治療的な介入としてではなく、アウトカムを測定する手段として位置づけられるべきである。
これは「記録に意味がない」という話ではありません。記録は自分の状態を知るには有効です。ただ、知ったあとに何をするかまでを用意しておかないと、そこで止まってしまうということです。
備えるとは、具体的に何をすることか
やることは多くありません。1つの日付に対して、次の4つだけです。
- 1
日付を1つ決める
気が重い日を1つだけ選びます。複数あっても、まずは直近の1つに絞ってください。
- 2
その日に効きそうな支えを1つ選ぶ
誰と会うか、どこに行くか、何を持っていくか。あれこれ用意せず、1つで構いません。
- 3
相手がいることなら、先に声をかけておく
「その日ちょっと会えない?」の一言を、余裕のあるうちに送っておきます。当日に頼るのは、想像よりずっと難しいためです。
- 4
当日は、決めたものを使うだけにする
その場で考えないことが目的です。決めておいたことを、そのまま実行します。
「もしこうなったら、こうする」と前もって決めておく方法は、行動科学の分野で広く使われている技法です。判断を、余裕のある日から、余裕のない日へ前借りしておくと考えると分かりやすいかもしれません。
「その日のリスト」を手元に置いておく
当日の自分は、平常時の自分より視野が狭くなっています。そこで役に立つのが、あらかじめ書いておいた短いリストです。
リストの例
- 昼休みに、駅前のあの店でコーヒーを飲む
- 夜21時に、Aさんに「今日終わった」とだけ送る
- 帰りの電車では、去年のライブの円盤を見る
- 何もできなかったら、そのまま寝ていい
ポイントは、最後の1行です。できなくてもいい、という許可を自分で書いておくと、リストがノルマに変わるのを防げます。備えは、当日の自分に課す宿題ではありません。読んだときに少し楽になるものであれば、内容は何でも構いません。
過ぎたあとに、何が効いたかを見ておく
その日が終わったら、2〜3日ほど置いてから、ひとつだけ振り返ってみてください。
実際に、何が助けになったか。
これは反省会ではありません。次に似た日が来たときに、また探し直さずに済むようにするための記録です。「Aさんに連絡したのが良かった」「人に会うのはむしろしんどかった」——どちらも、次に使える情報になります。
回数を重ねるほど、自分にとって効く備えの精度が上がっていきます。
毎日やらなくていい
最後に、いちばん大事なことを書いておきます。
この考え方は、毎日続ける必要がありません。 日本国内の調査では、健康関連アプリを使わない理由の第2位が「記録が面倒」(28.8%)でした。毎日の記録を前提にした習慣は、多くの人にとって続かないほうが自然です。
揺れそうな日が近づいたときと、週に1回だけ立ち止まるとき。開く理由をそれだけに絞っても、備えは成立します。穏やかな時期に何もしないことは、失敗ではありません。
ココロバランスがやっていること
ココロバランスは、この記事に書いた流れをそのままアプリにしたものです。揺れそうな日を登録すると、その日までに備えを1つずつ提案し、当日は「あなたには他にこれがある」というリストを差し出します。過ぎたあとに、何が効いたかを回収します。
支えを何本持っているかを数えて評価することはしません。数えることに意味がないことは、「心の分散投資」を検証した記事で整理したとおりです。
つらさが続くとき
気分の落ち込みや不安が長く続く場合、また「その日」を待つこと自体が耐えがたい場合は、備えを一人で抱えずに専門機関にご相談ください。厚生労働省のこころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)や、相談先をまとめたまもろうよ こころから探すことができます。
参考文献
- Astill Wright, L., Shajan, G., Purewal, D., et al. (2026). Mood Monitoring, Mood Tracking, and Ambulatory Assessment Interventions in Depression and Bipolar Disorder: Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. JMIR Mental Health, 13, e84020.
- MMD研究所(2021). ヘルスケアアプリと医療DXに関する調査(18〜69歳スマートフォン所有者 n=5,984)
- 厚生労働省. こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト
よくある質問
先のことを考えると、かえって不安が強くなりませんか?expand_more
「その日どうなってしまうか」を想像し続けるのは、たしかに不安を強めます。ここで言う備えは、想像することではなく、当日に使うものを1つ決めて手を離すことです。決めた時点でその件について考えるのをやめられる、という点にむしろ効果があります。
何も予定がない時期は、何をすればいいですか?expand_more
何もしなくて大丈夫です。穏やかな時期に無理に心のことを考える必要はありません。強いて言えば、余裕のあるうちに「自分に何があるか」を確かめておくと、次に揺れる日が来たときに探さずに済みます。
急に落ち込んだときは、備えは役に立たないのでは?expand_more
予測できない落ち込みは当然あります。備えはそれを防ぐものではなく、予測できるぶんだけ先に減らしておくものです。予測できない不調のためには、つらいときの連絡先や相談窓口をあらかじめ控えておくことが助けになります。
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ココロバランス編集部
心理学・行動科学の公開研究や書籍を参照しながら、日常で実践しやすいセルフケアの知恵をまとめています。強い不調が続く場合は、自己判断だけに頼らず医療機関や専門家にご相談ください。