目次
「推し活 依存」と検索してこのページを開いたということは、たぶん、誰かに言われたか、自分でふと不安になったかのどちらかだと思います。使いすぎかもしれない、考えすぎかもしれない、これって普通じゃないのかもしれない、と。
先に結論だけ書いておきます。この記事は、あなたが依存しているかどうかを判定しません。 「いくつ当てはまったら危険」というチェックリストも作りません。そういうものを見にきたのなら、期待とは違う記事です。
代わりにするのは、まず事実を確認すること。そのうえで、もう少し役に立ちそうな問いに置き換えることです。
まず、数字の話から
財務省が2025年に公表した資料に、推し活の現状がまとまっています。インテージが2025年1月に15〜79歳の5,000人を対象に行った調査では、推しがいる人の割合はこうなっていました。
全体で3人に1人。20代女性ではおよそ2人に1人です。市場規模も、矢野経済研究所の推計で主要16分野が2020年度の6,730億円から2024年度には1兆90億円へと伸びています。
支出額も見ておきます。1人あたりの年間支出は、国内アイドルで約4.8万円、ミュージシャンで約3.4万円、K-POPで約2.7万円。月にならせば数千円の世界です。世間が思い描く「際限なくつぎ込む人たちの趣味」というイメージと、実際の分布はかなり違います。
もう一つ、興味深い数字があります。物価高の影響について「全く影響しない」と答えた割合は、推し活全般で54.0%。食材費の29.9%を大きく上回っていました。これは無計画に使っているという意味ではなく、他を調整してでも優先度を保っている支出だ、と読むほうが自然です。
推し活は、対象への貢献に喜びを見出すという点で寄付と同様の利他性に基づく満足感をもたらし、ウェルビーイングの向上に寄与しうる。
第一生命経済研究所の分析として紹介されている見方です。推し活は、心の健康にとってマイナス側の現象として扱われているわけではありません。
「依存」という言葉は、少し雑に使われすぎている
そのうえで、言葉の整理をします。
日常会話で使われる依存は、たいてい強く好きである、優先している、頻繁に考えているという意味です。カフェイン、ゲーム、特定の人、好きなドラマ。私たちは相当に広い範囲でこの言葉を使います。
一方、臨床の場面で問題として扱われるのは、性質の違う状態です。ざっくり言えば、やめようとしてもやめられず、そのために生活の別の領域が実際に壊れている、という条件が揃ったときに検討されます。金銭が破綻している、仕事や学業が続かない、健康が損なわれている、といった具体的な損害です。
日常語としての依存
よく使われる意味
- ・よく考えている
- ・生活の優先順位が高い
- ・楽しみの中心になっている
- ・予定を推しに合わせている
臨床で検討される状態
損害が伴っている
- ・生活費・借入が回らない
- ・仕事や学業が続けられない
- ・睡眠や体調が明確に崩れている
- ・やめようとして繰り返し失敗している
左側は、趣味を持っている人の記述です。右側とはまったく別の話で、左側がいずれ右側になるという関係でもありません。多くの場合、心配されているのは左側のほう——そして左側は、問題として扱う対象ではありません。
念のため書いておくと、ここで診断をしているわけではありません。判断できるのは専門家だけですし、この記事はその代わりにはなりません。
生活が立ち行かなくなっているなら、話は別
ただし、上の右側に実際に心当たりがある場合だけは、書き分けておきます。
ここは意志の問題として扱わないでください
借金や滞納が生じている、仕事や学業の継続が難しくなっている、睡眠や食事が崩れている。このどれかに当てはまるなら、気持ちの持ちようでどうにかする話ではありません。早めに相談したほうが、確実に負担が軽くなります。
厚生労働省のこころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)や、相談先をまとめたまもろうよ こころから探すことができます。
該当しないなら、ここから先が本題です。
検討する価値がある問いは、別のところにある
依存かどうかを考えても、たいてい答えは出ません。基準が人によって違いますし、出たところで何かが変わるわけでもありません。
もう少し使える問いに置き換えます。
推しの活動が止まった日に、他に手を伸ばせるものがあるか。
卒業、活動休止、脱退、解散、体調不良。長く推していれば、いつかは起こりうることです。そしてその日は、たいてい前触れなく発表されます。
この問いには、いいところが二つあります。ひとつは、現在の推し活を否定しなくていいこと。もうひとつは、答えが「ない」だったとしても、それは欠陥ではなく単なる状況だということです。仕事が中心の時期も、推し活が中心の時期もあります。
心の支えを何本持っているかを数えて評価することには、実は根拠がありません。この点は「心の分散投資」を検証した記事で、自分たちの過去の説明を撤回する形で整理しました。数の話ではなく、揺れた日に手が届くかどうかの話です。
推しは「居場所」になりうる
ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。推し活は、心の支えの代用品ではありません。研究の枠組みのなかでも、そのまま一つの居場所として成立します。
5,055人を2年間追跡した研究では、すでに抑うつ状態にある人において、所属する集団を1つ増やすとその後の再発リスクが24%、3つで63%低下していました。ここでいう集団に、ファンコミュニティは問題なく含まれます。職場やサークルと同じ枠です。
数字を受け取るときの条件
この24%・63%という数字は「すでに抑うつ状態にある人において」観察されたものです。誰にでも当てはまる約束ではありませんし、「3つ作らなければいけない」という意味でもありません。
もう一つ、アイデンティティに関する研究が示しているのは、所属が支えとして働くのは他の人からも承認されている場合だということです。相手の側からも「いつもいる人」として認識されている状態を指します。
つまり、推しを見て過ごす時間と、界隈に所属している状態とは、少し性質が違います。前者に価値がないという意味ではまったくありません。一人で静かに推すことを選んでいる人はたくさんいますし、そのほうがペースを守れるという感覚もよく分かります。ただ、研究で効果が確認されているのは後者のほうだ、という事実の整理です。
界隈での関係の作り方については推し活仲間は「居場所」になるという記事で具体的に書きました。
増やさない選択も、ふつうに成立する
ここまで読んで、「じゃあ何か増やさないと」とは思わなくて大丈夫です。
増やさないという判断には、ちゃんと理由があります。人と関わる余力がない時期がある。界隈に入ると比較のしんどさが増える。いまの一人のペースが心地よい。どれも、あとから修正されるべき間違いではありません。
決めるのは読者自身です。 この記事にできるのは、判断材料を並べることまでで、そこから先に踏み込むつもりはありません。何も変えずにページを閉じるのも、まったく問題のない終わり方です。
もし増やすなら、ゼロから探さない
そのうえで、もう一つあってもいいかもしれないと思ったときのために。新しい場所を開拓するより、すでに接点があるものを育てるほうが現実的です。
- 1
すでに月1回以上行っている場所を思い出す
ジム、行きつけの店、同じ現場に来ている人、オンラインのコミュニティ。新規開拓より確実です。
- 2
同じ相手に、繰り返し会う
回数を増やすより、同じ時間帯・同じ顔ぶれに重ねて会うほうが「認識される」に近づきます。
- 3
一度だけ、自分から声をかける
内容は感想で十分です。一方通行を双方向に変える一歩になります。
- 4
余裕のあるうちに確かめておく
つらい日にゼロから探すのは難しいので、平時のうちに手元にあるものを見ておきます。
推しの卒業や活動休止が具体的に見えている場合は、卒業発表に備える記事のほうが直接的です。推し活に限らず、揺れそうな日の迎え方については心が揺れる日に備えておくという記事にまとめています。
ココロバランスの立場
私たちは、支えが何本あるかを数えて採点するアプリを作っていません。数えても意味がないことが分かったからです。推し活の熱量を測ることも、減らすよう促すこともしません。
扱っているのは、揺れそうな日を先に登録しておき、その日までに手元の支えを確かめておくこと。週に一度、30秒の点検だけです。毎日の記録は求めません。
推しがいることは、失うものがあるということでもあります。だからこそ、その日が来る前に確かめておくことに意味があります。それ以上のことを、この記事から受け取る必要はありません。
参考文献
- 財務省『ファイナンス』2025年11月号 経済トレンド137. 推し活〜若年層を中心に急成長する消費形態〜
- Cruwys, T., Dingle, G. A., Haslam, C., et al. (2013). Social group memberships protect against future depression, alleviate depression symptoms and prevent depression relapse. Social Science & Medicine, 98, 179-186.
- Thoits, P. A. Identity accumulation, verification, and well-being. Handbook of the Sociology of Health, Illness, and Healing.
よくある質問
推しにお金を使いすぎている気がします。expand_more
調査では、年間支出の中央的な水準は国内アイドルで約4.8万円、ミュージシャンで約3.4万円、K-POPで約2.7万円と報告されています。月あたりにすると数千円規模で、趣味の支出としては特別に大きい額ではありません。ただし金額の大小より、生活費を削っている・借入をしているかどうかのほうが実際には重要です。そこに該当しないなら、使いすぎというより「使いたいところに使っている」状態かもしれません。
推しがいないと生きていけない、と思ってしまいます。expand_more
その感覚自体を問題として扱う必要はありません。何かに強く支えられている状態は、珍しいことでも不健全なことでもありません。もし気になるとしたら、それは「推しがいること」ではなく、「推しの活動が止まったときに他に手を伸ばせるものがあるか」という別の話です。この記事では後者のほうを扱っています。
推し活をやめられません。やめたほうがいいのでしょうか。expand_more
やめる理由が見当たらないのであれば、やめる必要はありません。生活・仕事や学業・健康・金銭のいずれもが成り立っているなら、それは続いている趣味であって、やめるべき習慣ではありません。逆にそのどれかが崩れている場合は、意志の問題として扱わず、専門機関に相談したほうが早く楽になります。
あわせて読みたい
ココロバランス編集部
心理学・行動科学の公開研究や書籍を参照しながら、日常で実践しやすいセルフケアの知恵をまとめています。強い不調が続く場合は、自己判断だけに頼らず医療機関や専門家にご相談ください。