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どこにも居場所がない、と感じる時期があります。
会社にも家にも自分の席はあって、話しかければ返事も返ってくる。それでも、自分がここにいる必要があるのかと考えてしまう。誰かに言えば「贅沢な悩みだ」と言われそうで、言わないままになっている。
この感覚は、状況を説明しにくいのが厄介なところです。何かが決定的に欠けているわけではないので、外から見ると問題がないように見えてしまいます。
そして本人も、うまく言葉にできません。孤独と言うほど一人ではないし、疎外されているとまでは言えない。名前がつかないものは、抱えたまま持ち歩くことになります。
この記事では、解決策を出す前に、まずこの感覚が何なのかを整理します。
「居場所がない」には、2種類ある
同じ言葉で語られていますが、中身はまったく違う2つの状態が混ざっています。
所属先そのものがない
物理的に、行く場所がない
- ・仕事を離れている、在宅で人と会わない
- ・引っ越しや異動で人間関係が切れた
- ・家族と離れて暮らしている
- ・誘われる予定が一つもない
所属先はあるが、認識されていない
席はあるのに、いない扱いに感じる
- ・職場にいるが、業務の話しかしない
- ・家にいるが、一人でいるのと変わらない
- ・会話には入るが、自分が抜けても回る
- ・顔は知られているが、名前で呼ばれない
前者は分かりやすい状態です。行く場所がないのだから、居場所がないのは筋が通っています。
問題は後者のほうです。所属先はある——それなのに居場所がないと感じる。この状態は、自分でも矛盾しているように思えるので、「気のせいだ」「わがままだ」と処理されがちです。
しかし、これは気のせいではありません。実際に、支えとして働いていない状態です。
所属しているのに居場所がない、という感覚の正体
アイデンティティと well-being の関係を扱った研究に、この矛盾を説明できるものがあります。
そこで報告されているのは、所属を積み重ねることが心の状態を良くするのは、その所属が他の人からも承認されている場合に限られる、ということです。承認とは、大げさなものではありません。相手の側にも「この人はここにいる」という認識があるかどうか、という程度の意味です。
アイデンティティの累積が well-being を高めるのは、そのアイデンティティが他者から承認(verified)されている場合である。承認を伴わないアイデンティティの累積は、むしろ well-being を低下させる。
後半が重要です。承認されないまま所属だけが増えると、well-being はむしろ下がると指摘されています。
つまり、所属の数が増えても孤独が減らないことがあり得る。それどころか、所属している場所が多いほうがしんどい、という状態も理屈のうえで説明がつきます。会社があって、家庭があって、付き合いもある。それでも自分がそこにいると認識されている実感がなければ、支えの本数として数えられるものは増えていません。
「居場所がない」という言葉が指しているのは、たいていこちらです。場所の不在ではなく、承認の不在。そう置き換えてみると、腑に落ちる部分があるのではないかと思います。
そして、これは自分の努力不足ではありません。承認は相手の側で起きることなので、自分の側だけで完結させられないものです。頑張れば手に入るという構造をしていません。
これは、性格やコミュ力の問題ではない
こうした話をすると、自分の内向性や話し下手に原因を求める方向に行きがちです。ただ、研究の側から見ると、その置き方は事実に合っていません。
孤独感と臨床的に有意な抑うつ症状を抱える15〜25歳174人を対象にした試験で、社会的なつながりを作り直すプログラム(Groups 4 Health)と認知行動療法が比較されています。結果は、抑うつ症状への効果が認知行動療法に劣らず(非劣性)、孤独感については上回っていました。
ここから読み取れるのは、つながりを作り直すことが、専門的な介入として設計され、検証されている領域だということです。心理療法と並べて比較されるくらいには、手順と技術が必要なものだと扱われています。
性格でどうにかなるものなら、プログラムを組んで臨床試験にかける必要はありません。うまくいっていないことの説明として、人格を持ち出す必要はないということです。
居場所が心に効くことは、数字でも出ている
もう一つ、規模の大きい追跡研究があります。
5,055人を2年間追跡し、抑うつ・年齢・性別・経済状況・健康状態などを統制したうえで、所属する集団の数とその後の抑うつ再発リスクの関係を調べたものです。
この数字が当てはまる範囲
この24%・63%という結果は、すでに抑うつ状態にある人において観察されたものです。誰にでもそのまま当てはまる予防効果ではありませんし、3つ作らないと意味がない、という読み方をするものでもありません。ノルマとして受け取ると、かえってしんどくなります。
この種の研究がどこまで言えてどこから言えないのかは、「心の分散投資」を検証した記事で詳しく整理しています。数を増やせば強くなる、という一般化には根拠が足りない、というのがそこでの結論です。
いま、しなくていいこと
ここまでの内容から、すぐ行動に移そうとする必要はありません。急いでやると逆効果になりやすいものを、2つ挙げておきます。
一つは、無理に新しい場所へ行くことです。合わない場所に通うのは消耗しますし、そこで居心地の悪さを味わうと「やっぱり自分には無理だ」という結論だけが残ります。認識されるまでには時間がかかるので、短期間で判定できるものでもありません。
もう一つは、いまいる場所で認められようと頑張ることです。承認は相手の側で起きるものなので、こちらの努力量と結果が比例しません。成果を出せば認識されるはずだ、という進め方をすると、うまくいかなかったときに自分の価値の問題として跳ね返ってきます。
どちらも、やってはいけないことではありません。ただ、いま消耗している状態で着手すると失敗しやすい、というだけです。しばらく何もしないでいる、という選択もあります。
比べる相手が多い環境にいると、この消耗はさらに増えます。その構造については他人比較のクセについての記事で扱っています。
もし一歩だけ動くなら
動く気力があるときのために、負担の小さいやり方を書いておきます。ゼロから探すのではなく、すでに接点がある場所を使う方向です。
- 1
すでに行っている場所を思い出す
月に1回以上、義務ではなく自分の意思で行っている場所を1つ挙げます。行きつけの店、通っているジム、図書館、たまに行く現場。1つで十分です。
- 2
同じ時間帯に、もう一度行く
認識されるかどうかは、通った回数よりも、同じ時間帯に居合わせた回数で決まります。ばらばらに4回行くより、同じ曜日の同じ時間に2回のほうが早く顔を覚えられます。
- 3
会話は、しなくていい
目が合ったら会釈する、声をかけられたら返す。それだけで、相手の側に自分が残る条件は満たされていきます。話す量は関係ありません。
居場所と習慣は、別のもの
一人で完結する活動——睡眠、筋トレ、読書、散歩——は、心を整えるうえで確かに役に立ちます。ただしそれは習慣であって、ここで言う居場所とは働き方が違います。居場所として効くには、その場にいる誰かから認識されている必要があるためです。
同じジムでも、黙って通って帰るだけなら習慣、スタッフや常連と顔見知りになっていれば居場所寄り、という分かれ方になります。どちらが上ということではありません。
家庭でも職場でもない第3の場所を「サードプレイス」と呼んだのは社会学者のレイ・オルデンバーグですが、その条件は「肩書きを持ち込まない」「来ても帰っても構わない」といった、かなりゆるいものでした。特別な場所を用意する話ではありません。
新しい場所を育てる具体的な手順は大人のサードプレイスの作り方に、趣味の場が居場所として機能する条件は推し活仲間と居場所の関係を書いた記事にまとめてあります。動く気力が戻ってきたときに読んでもらえれば十分です。
数えて評価はしません
ココロバランスは、支えを何本持っているかを数えて採点するアプリではありません。何本あれば十分という基準が存在しないためです。
やっているのは、心が揺れそうな日を先に登録しておいて、その日までに手持ちの支えを確かめられるようにしておくこと。確認は週に1回30秒で、毎日の記録は求めていません。
いま居場所がないと感じている状態も、そのまま登録しておいて構いません。空いていることが分かる形になっているだけでも、意味はあると考えています。
つらさが続くときは
孤独感や気分の落ち込みが長く続く場合は、一人で抱えずに専門機関にご相談ください。厚生労働省のこころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)、よりそいホットライン(0120-279-338)、相談先をまとめたまもろうよ こころから探せます。
参考文献
- Thoits, P. A. Identity accumulation, verification, and well-being. Handbook of the Sociology of Health, Illness, and Healing.
- Cruwys, T., Dingle, G. A., Haslam, C., et al. (2013). Social group memberships protect against future depression, alleviate depression symptoms and prevent depression relapse. Social Science & Medicine, 98, 179-186.
- Haslam, C., Cruwys, T., Chang, M. X-L., et al. (2022). Groups 4 Health versus cognitive behavioural therapy for depression and loneliness in young people: randomised phase 3 non-inferiority trial. The British Journal of Psychiatry.
- Oldenburg, R. (1989). The Great Good Place. 解説: Project for Public Spaces. What is a Third Place? Beyond the Buzzword to True Social Connection.
よくある質問
家族も職場もあるのに孤独を感じるのは、おかしいことですか?expand_more
おかしくありません。むしろ、よくある形のほうです。アイデンティティに関する研究では、所属が心の支えとして働くのは、その所属が他の人からも承認されている場合に限られると報告されています。席があることと、その場で認識されていることは別の条件です。両方そろっていないと、所属していても孤独は残ります。
居場所がないのは、自分のコミュ力が低いからでしょうか?expand_more
性格の問題として説明できるものではありません。孤独と抑うつを抱える若者を対象にした臨床試験では、社会的なつながりを作り直すプログラムが認知行動療法と同等の効果を示しています。専門的な介入として設計・検証されている領域であって、気合いや素質でどうにかする話ではない、ということです。
一人で過ごすのが好きなのですが、それでも居場所は必要ですか?expand_more
必要という言い方はしません。一人の時間が回復になる人はいますし、それを手放す理由もありません。ただ、一人で完結する活動は、研究で心を支えると報告されているタイプのものとは働き方が違います。どちらが上ということではなく、別のものだと分けておくと、自分に足りないものが何なのかが見えやすくなります。
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ココロバランス編集部
心理学・行動科学の公開研究や書籍を参照しながら、日常で実践しやすいセルフケアの知恵をまとめています。強い不調が続く場合は、自己判断だけに頼らず医療機関や専門家にご相談ください。