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復職日が決まると、それまでよりかえって落ち着かなくなることがあります。
回復してきたはずなのに、朝起きたときの重さが戻ってくる。日付が近づくたびに、あの頃の感覚を思い出す。「まだ治っていないのでは」と考える。
この時期に不安が強まること自体は、回復の度合いとは別に起きています。 何が起きるか分からない状態に置かれているからです。分からないことに対して身構えるのは、正常な反応の側です。
数字を先に置いておく
日本のIT企業でうつ病により休職し、復職した540人を8年半追跡した研究があります。復職後に再び休職した人の累積割合は、次のように報告されています。
この数字を出す目的は、不安をあおることではありません。逆です。再休職は、本人の甘さで起きているのではなく、一定の割合で起きることとして観察されている、という事実を先に置いておきたいからです。
そして、この図はもう一つ実用的なことを教えてくれます。線が立ち上がっているのは最初の2年で、再休職全体の85.2%は3年以内に起きています。 つまり、備えるべき時期がどこかがはっきりしています。復職初日に全力を出すことより、最初の1〜2年をどう設計するかのほうが、この研究の示す通りなら重要だということです。
もし戻った先でうまくいかなかったとしても、それは失敗の証明ではありません。そして、条件を整えておくことには意味があります。以下は、そのための材料です。
この記事の位置づけ
復職の可否や時期の判断は、主治医と産業医が行うものです。ここで扱うのは、判断そのものではなく、判断が済んだあとに自分の側で準備できることです。
復職の判断には、2つの段階がある
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、復職までの流れが5つのステップに整理されています。ここで混乱しやすいのが、主治医の判断と、会社の判断が別だという点です。
- 主治医の「復職可能」:診察室で見えている範囲での判断。日常生活が送れる水準に回復しているかが中心になります。
- 会社(産業医・人事)の判断:実際の業務内容、通勤、勤務時間、職場の状況を照らしたうえでの判断。
主治医の診断書を出したのに復職日が決まらない、という状況は、この二段構えから起きます。引き延ばされているのではなく、そういう手順になっています。
そして手引きでは、ステップ3で「職場復帰支援プラン」を作ることになっています。ここに何が書かれるかで、戻ったあとの数か月が決まります。
復職支援プランで詰めておきたいこと
プランは会社が作るものですが、中身について希望を出せます。ここを他人任せにすると、戻った初日に想定外が来ます。
時間の条件
最初に決まりやすい部分
- ・勤務時間(短時間勤務から始めるか)
- ・残業の可否と上限
- ・出社日数と在宅の割合
- ・通勤時間帯(ラッシュを避けられるか)
業務の条件
曖昧なまま始まりやすい
- ・最初に担当する業務の範囲
- ・納期のある案件を持つ時期
- ・顧客対応や会議の扱い
- ・業務量を戻していく段取りと時期
相談の経路
決めておかないと使えない
- ・困ったときに最初に言う相手
- ・産業医面談の頻度と次回の日程
- ・配慮が守られていないときの連絡先
- ・主治医の次回受診日
周囲への伝え方
先に決めておくと楽
- ・誰にどこまで伝わっているか
- ・自分から説明する範囲
- ・聞かれたときの答え方
- ・歓迎や気遣いへの対応
このうち、**いちばん抜けやすいのが「業務量を戻していく段取りと時期」**です。「最初は軽めに」で始まると、軽めがいつまでなのか誰も決めていないので、実際には数週間で元の水準に戻ります。時期を数字で決めておくほうが安全です。
復職初日の想定を、先に作っておく
当日の自分は、判断力が落ちています。だから前もって決めておく、という考え方は復職の場面でよく効きます。
- 1
初日にやることを3つだけ決めておく
挨拶をする、メールを開く、退勤する。これで十分です。成果を出す日ではありません。
- 2
「大丈夫?」への返答を1つ用意しておく
初日は同じことを何度も聞かれます。毎回考えると、それだけで消耗します。「ご心配おかけしました、少しずつ戻します」を1つ決めておけば済みます。
- 3
退勤時刻を先に決めて、動かさない
初日に残ってしまうと、それが基準になります。決めた時刻で帰ることは、周囲に対しても情報になります。
- 4
帰宅後にやることを、決めておかない
初日の夜は消耗します。予定を入れず、判断が要らない状態にしておきます。
- 5
翌日の朝を軽くしておく
服も持ち物も前夜に用意しておきます。2日目の朝がいちばん重い、という声は多くあります。
このやり方をもう少し一般化したものは、気が重い予定に前日から備える記事にまとめています。復職に限らず使える形にしてあります。
初日の目的は、成果ではない
初日にやるべきことは、「戻れた」という事実を作ることだけです。仕事を進める必要はありません。ここを取り違えると、初日から全力を出して、その週の後半でもたなくなります。
再び崩れるときの前兆を、事前に決めておく
再休職が起きるとき、多くの場合、前触れがあります。ただし進行中には気づけません。 気づけないのは注意力の問題ではなく、判断する側の機能が落ちているからです。
だから、まだ調子が悪くないうちに「これが出たら相談する」というラインを決めておきます。
- 眠れない日が3日続いたら
- 朝、支度を始めるまでの時間が明らかに長くなったら
- 食事を抜く日が週に2回以上になったら
- 仕事の話題が頭から離れない状態が、休日にも続いたら
数字で決めておく理由は、その時点の自分に判断させないためです。「まだいける気がする」は、崩れる前に必ず出てくる感覚です。
決めたラインは、誰かに共有しておくとさらに効きます。家族でも、産業医でも構いません。休職前と同じように一人で抱えると、同じ経路をたどりやすくなります。
心が揺れそうな時期に、事前に手持ちを確かめておくという考え方全般は、メンタルを崩す前にできることの記事で扱っています。
職場だけに戻らない
復職して起きやすいのが、生活が再び職場一色に戻ることです。休職中にできた余白は、戻った初月でほぼ消えます。
これは自然なことですが、休職前と同じ配置に戻る、ということでもあります。原因になっていた条件が仕事の中にあったのなら、支えも仕事の中にしかない状態は、同じ揺れ方をしやすい形です。
全部を維持する必要はありません。週に1回だけ、仕事と関係のない予定を残す程度で構いません。それが復職後に効くのは、うまくいかない週が来たときに、評価の出どころが1つではなくなるためです。
支えが1つに集まっているときに実際のところ何が起きるかは、「仕事しかない人生」と気づいたときの記事で整理しています。
ココロバランスがやっていること
ココロバランスは、心の支えを複数の「柱」として登録して、いまどこに寄っているかを見えるようにするアプリです。復職の可否を判定するものではありません。
復職期に使う場合に効くのは、支えが再び仕事に寄っていく過程が図で見えるという点です。進んでいる最中は自覚しにくいので、あとから気づくより早く分かります。記録は週に1回30秒で、毎日の入力は求めていません。連続記録の日数を数える仕組みも置いていません。
参考文献
- Endo, M., Haruyama, Y., Muto, T., Yuhara, M., Asada, K., & Kato, R. (2013). Recurrence of Sickness Absence Due to Depression after Returning to Work at a Japanese IT Company. Industrial Health, 51(2), 165-171.
- 厚生労働省. 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(改訂版).
- 厚生労働省. こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト.
- 全国健康保険協会(協会けんぽ). 傷病手当金|給付と手続き.
よくある質問
復職日が近づくと不安が強くなるのは、まだ治っていないからですか?expand_more
そうとは限りません。復職前に不安が強まるのは、これから起きることが分からない状態に置かれているためで、回復の度合いとは別のことが起きています。異動や新学期の前に落ち着かなくなるのと同じ構造です。ただし、不眠が戻ってきた、食べられなくなったなど、休職前と同じ症状が再び出ている場合は別の話なので、復職日の前に主治医に伝えてください。
元の部署に戻るべきですか、異動を希望すべきですか?expand_more
どちらが正しいという一般解はありません。厚生労働省の手引きでは、原則として元の職場に復帰させることが多いとしつつ、状況によって配置転換や異動を検討することも示されています。判断材料になるのは、休職の原因が業務内容にあったのか、特定の人間関係にあったのか、働き方の条件にあったのかです。原因が特定の人にある場合、同じ環境に戻る判断は慎重にすべきです。主治医と産業医の両方に相談してください。
職場に何と説明すればいいですか?expand_more
診断名を伝える義務はありません。実務的に必要なのは、診断名ではなく「何ができて、何に配慮が必要か」の情報です。残業は当面難しい、朝の時間帯は避けたい、特定の業務は段階的に戻したい。この形で伝えるほうが、相手も対応を決めやすくなります。何をどこまで伝えるかは、事前に主治医と産業医に相談して決めておくと迷いません。
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ココロバランス編集部
心理学・行動科学の公開研究や書籍を参照しながら、日常で実践しやすいセルフケアの知恵をまとめています。強い不調が続く場合は、自己判断だけに頼らず医療機関や専門家にご相談ください。