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決算、年度末、繁忙シーズン、大型案件。来ることが前もって分かっているストレスというのは、実はそう多くありません。
分かっているということは、対処ではなく準備ができるということです。この記事は、その準備の中身をまとめたものです。
忙しいときに枯渇するのは、時間ではない
繁忙期の対策として真っ先に思いつくのは時間の確保ですが、実際にいちばん先に足りなくなるのは判断力のほうです。
何を食べるか、いつ寝るか、何を先にやるか、断るかどうか。こうした判断は一つひとつが小さくても、積み上がると消耗します。この現象については決断疲れについての記事で扱っていますが、繁忙期には決めることの量そのものが増えます。
だから準備の中心は、判断の前倒しになります。忙しいときの自分に判断させないよう、判断を済ませた状態で入る。これが全体の方針です。
根性の話ではない
繁忙期を乗り切れるかどうかを気力の問題として扱うと、乗り切れなかったときに人格の話になります。実際には、条件が整っていたかどうかの問題です。仕事の要求が高い時期に、支える側の資源がどれだけ残っているか。 産業・組織心理学の枠組みでも、消耗はこの2つの釣り合いで説明されます。
最初に削られるものは決まっている
繁忙期に入ると、生活から順番にものが消えていきます。この順番は、だいたいの人で共通しています。
最初に消える
予定がキャンセルできるもの
- ・人と会う約束
- ・習い事・ジム・趣味の時間
- ・通っていた場所
- ・読書や映画などの余暇
次に消える
自分ひとりで完結するもの
- ・自炊
- ・運動と歩く量
- ・身の回りの整理
- ・外に出る用事
そのあと削られる
身体の側
- ・睡眠時間
- ・食事の回数と質
- ・休日の休息
- ・受診や通院
最後まで残る
残ってしまうもの
- ・仕事そのもの
- ・仕事の連絡への対応
- ・翌日の段取りを考える時間
- ・頭の中での反芻
この順番が問題なのは、消える順番が、回復に効く順番とほぼ逆になっているためです。
研究では、仕事から心理的に離れられている時間、自分で決められる時間、人とのつながりが、回復に寄与するとされています。上の表で最初に消えているのは、まさにそれらです。
そして最後まで残るのは仕事と反芻。つまり、繁忙期が進むにつれて、要求だけが残って資源が消える構成に近づきます。
忙しくなる前に決めておく5つのこと
準備は、始まる前にしかできません。始まってからでは、決める余力がないからです。
- 1
守るものを1つだけ決める
全部は守れません。1つだけ選びます。睡眠時間でも、週1回の予定でも構いません。1つに絞るのは、多く決めるほど全部が崩れるからです。
- 2
削っていいものを、先に決めて言葉にする
「今月は自炊しない」「掃除は最低限」と先に決めておくと、実行したときに罪悪感が出にくくなります。決めずに削ると、そのたびに評価が一つ下がります。
- 3
食事と睡眠の下限を数字で決める
「なるべく寝る」では機能しません。「6時間は寝る」「朝は必ず何か食べる」のように数字にします。数字は、判断せずに従える形だからです。
- 4
終わりの日をカレンダーに入れる
終わりが見えている状態と見えていない状態では、同じ負荷でも消耗が変わります。おおよそでも構わないので、日付を置きます。
- 5
終わったあとの予定を、先に1つ入れておく
繁忙期が明けてから考えると、その頃には何もする気力がありません。忙しくなる前の自分が、1つだけ予約しておきます。
「守るもの1つ」の選び方
楽しいかどうかではなく、止めると再開しにくいものを選ぶと後で効きます。睡眠は多少削っても戻せますが、人との予定や通っていた場所は、一度止めると再開に手間がかかり、そのまま消えることが多い部類です。
期間中は、新しいことをやらない
繁忙期に入ってからのセルフケアで失敗しやすいのが、新しく何かを始めることです。
瞑想アプリを入れる、運動を始める、生活リズムを整え直す。どれも効果があるものですが、繁忙期の最中に導入すると、実行できない項目が増えるだけになります。そして「ケアすらできていない」という評価がもう一つ増えます。
期間中にやることは、すでにできていることを止めない、それだけで十分です。
もし1つだけ足すなら、短い休憩が現実的です。10分以下の休憩(マイクロブレイク)の効果を22の研究からまとめたメタ分析では、疲労の軽減と活力の向上と関連することが報告されています。ただし同じ分析では、消耗の大きい作業からの回復には10分では足りない可能性も示されています。
つまり、短い休憩は疲労感には効くが、大きな消耗を帳消しにはしない。 期待の水準はそこに置いておくのが正確です。
終わったあとが本番
繁忙期が明けて起きやすいのが、思ったより回復しないという状態です。
理由は2つあります。
1つは、休暇による回復は長続きしないことです。休暇の効果を調べたメタ分析では、休暇中に改善した健康と幸福感は、仕事に戻ってから最初の1週間のうちにほぼ消えることが示されています。繁忙期のあとにまとめて休んでも、それだけでは元に戻りません。
もう1つは、繁忙期の間に止めたものが、自動的には戻らないことです。人との予定、通っていた場所、趣味の時間。止めるのは一瞬ですが、再開には行動が必要です。そして、消耗した状態でその行動を起こすのは難しい。
だから、上のステップ5で「終わったあとの予定を先に1つ入れておく」を挙げています。判断力が残っているうちに予約を済ませておくと、再開に判断が要らなくなります。
繁忙期後にどう休むかについては、休んでも疲れが取れないときの記事で、回復する休みの条件を扱っています。
繁忙期が終わらない場合
始まりと終わりが決まっているのが繁忙期です。終わりが見えない状態が半年、1年と続いているなら、それは繁忙期ではなく常態で、備えの問題ではありません。
その状態が続いた先に来るものについては、燃え尽き症候群のサインの記事にまとめました。WHOの定義では、バーンアウトは「適切に管理されなかった慢性的な職場のストレス」から生じるとされています。管理されなかった、という部分が定義に入っていることは、知っておく価値があります。
ココロバランスがやっていること
ココロバランスは、心の支えを複数の「柱」として登録して、いまどこに寄っているかを見えるようにするアプリです。
繁忙期に効くのは、何を止めていて、何が残っているかが図で見えるという点です。削るのは必要な判断ですが、削ったこと自体を忘れると、明けたときに何を再開すればいいのか分からなくなります。記録は週に1回30秒で、毎日の入力は求めていません。忙しい時期に毎日の記録を求める設計にはしていません。
つらさが続くとき
繁忙期が明けても消耗が戻らない場合や、気分の落ち込み・不眠が2週間以上続く場合は、産業医や医療機関にご相談ください。厚生労働省のこころの耳には、働く人向けの電話・メール相談の窓口があります。
参考文献
- Albulescu, P., Macsinga, I., Rusu, A., et al. (2022). "Give me a break!" A systematic review and meta-analysis on the efficacy of micro-breaks for increasing well-being and performance. PLOS ONE, 17(8), e0272460.
- de Bloom, J., Kompier, M., Geurts, S., et al. (2009). Do We Recover from Vacation? Meta-analysis of Vacation Effects on Health and Well-being. Journal of Occupational Health, 51(1), 13-25.
- Bakker, A. B., Demerouti, E., & Sanz-Vergel, A. (2023). Job Demands–Resources Theory: Ten Years Later. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 10, 25-53.
- 厚生労働省(2025). 令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要.
よくある質問
忙しい時期に自分のケアなんてしている余裕がありません。expand_more
その通りで、繁忙期の最中に新しいことを始めるのは無理があります。だからこの記事では、忙しくなる前に決めておくことを中心に扱っています。準備が効くのは、当日の判断を減らせるからです。忙しいときにいちばん枯渇するのは時間ではなく判断力なので、判断を前もって済ませておくと実行できる確率が上がります。
繁忙期が終われば元に戻りますか?expand_more
多くの場合は戻りますが、戻り方には条件があります。繁忙期の間に、仕事以外の予定・人との接点・通っていた場所が全部止まっていると、終わったあとに再開する手間がかかり、そのまま消えることがあります。研究でも、休暇による回復は仕事に戻ると1週間ほどで薄れることが示されています。終わったら回復する、ではなく、期間中に何を止めなかったかのほうが効きます。
繁忙期がずっと続いている状態です。expand_more
それは繁忙期ではなく、常態です。この記事の想定は、始まりと終わりが決まっている期間ですが、終わりが見えない状態が続いている場合は、備えの問題ではなく働き方の条件の問題になります。消耗が続いている場合はバーンアウトの領域に入るため、産業医や医療機関への相談を検討してください。
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ココロバランス編集部
心理学・行動科学の公開研究や書籍を参照しながら、日常で実践しやすいセルフケアの知恵をまとめています。強い不調が続く場合は、自己判断だけに頼らず医療機関や専門家にご相談ください。