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ココロバランス
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家に帰っても仕事のことを考えてしまう|「心理的距離」という回復条件

目次

18時にPCを閉じる。ご飯を食べる。テレビをつける。それでも、頭の中では今日の会議が再生されている。

寝る前に明日の段取りを考えている。土曜の午後に、月曜に返すメールの文面を考えている。

これは意志が弱いのではなく、研究上の名前がついている状態です。

psychological detachment(心理的距離)とは

産業・組織心理学では、仕事のあとの回復を4つの体験に分けて扱う枠組みが使われています。Sonnentag と Fritz が2007年に提案したもので、次の4つです。

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心理的距離

psychological detachment

  • 仕事のことを考えていない状態
  • 物理的に離れているだけでは足りない
  • 4つのうち最も一貫して効くとされる
  • この記事の主題
self_improvement

リラクゼーション

relaxation

  • 身体的・精神的な活性が下がる
  • 入浴、音楽、散歩など
  • 何もしない時間も含む
tune

コントロール

control

  • 何をするかを自分で決められる
  • 時間の使い方の裁量
  • 決められた予定は回復になりにくい
school

熟達

mastery

  • 新しいことを学ぶ・上達する
  • 仕事とは別領域での手応え
  • 疲れる活動でも回復になりうる

このうち、心の状態の改善と最も一貫して結びつくとされているのが、いちばん上の心理的距離です。

重要なのは、これが「オフィスを出たかどうか」ではないという点です。退勤していても、頭の中で仕事が続いているなら、この意味では距離が取れていません。

忙しい人ほど、切り替えにくくなる

86本の研究をまとめたメタ分析では、心理的距離を妨げる要因と、心理的距離がもたらす結果の両方が整理されています。

そこで示されている構造が、この問題の厄介なところです。

  • 仕事の要求が高い人ほど、心理的距離を取りにくい
  • 心理的距離が取れていない人ほど、消耗や不調が強い

つまり、いちばん必要としている人がいちばん取りにくい。 同じ研究チームは、この関係を「ストレッサー-デタッチメント・モデル」として定式化しています。

これは、切り替えられない自分を責める理由が一つ減る、という話でもあります。切り替えにくさは、忙しさの結果として予想される状態です。

仕事からの心理的距離(psychological detachment)は、労働者の健康と well-being にとって重要な回復体験である。86本の研究を対象としたメタ分析では、仕事上の要求(job demands)が心理的距離を妨げる主要な先行要因であり、心理的距離の低さは疲労感・消耗・心身の不調と関連することが示された。

出典:Wendsche & Lohmann-Haislah (2017) Frontiers in Psychologyopen_in_new

「考えない」を目標にすると失敗する

対処として真っ先に思いつくのは「考えないようにする」ですが、これはうまくいきません。抑え込もうとする行為そのものが、対象への注意を保ってしまうためです。

代わりに効くのは、注意が実際に別のものに向いている状態を作ることです。頭を空にするのではなく、頭を別のことに使う。

ここで、先ほどの4つのうち「熟達」が効いてきます。新しいことを学ぶ活動は、疲れるにもかかわらず回復に寄与すると報告されています。ぼんやりする時間より、注意を要求してくれる活動のほうが、仕事の思考を追い出す力が強いためです。

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向いている活動・向いていない活動

仕事のことを考える隙が残るかどうか、が判断軸になります。皿洗いや単純作業は隙が大きく、思考が戻ってきやすい部類です。逆に、手順を追う必要がある活動——楽器、料理の新しいレシピ、対戦のあるゲーム、体を動かすもの——は、そのあいだ仕事の思考が入りにくくなります。楽しいかどうかより、注意を要求するかどうかで選ぶのがコツです。

区切りの手順を、毎日同じにする

もう一つ、実際に効きやすいのが「終わりの合図」を作ることです。

通勤していた頃は、移動そのものがこの役割を果たしていました。在宅勤務が増えて切り替えが難しくなったという声が多いのは、この切れ目が構造的になくなったためです。

  1. 1

    終業時に、翌日の最初の1件だけ書き出す

    全部の段取りを立てる必要はありません。「明日いちばん最初に何をするか」を1行書くだけです。これがないと、夜のあいだ頭が段取りを保持し続けます。

  2. 2

    未完了の件を、置き場所に移す

    気になっている案件を1か所に書き出しておきます。覚えておく必要がなくなると、頭から降ろせます。内容の解決は不要で、書いた事実だけで効きます。

  3. 3

    同じ行為で区切る

    PCを閉じる、着替える、5分歩く。何でも構いませんが、毎日同じ手順にします。内容ではなく反復が合図になります。

  4. 4

    注意を要求する活動を、最初の30分に置く

    帰宅直後がいちばん戻ってきやすい時間帯です。ここにぼんやりする時間を置くと、思考が仕事に戻ります。

  5. 5

    寝る前に仕事の話をしない時間を決める

    家族やパートナーとの会話で仕事の話が中心になっていると、そこで再生が起きます。時刻を決めておくほうが揉めません。

「考えている」と「反芻している」を分ける

ここは分けておく価値があります。

仕事について前向きに構想を練っている状態と、うまくいかなかった場面を繰り返し再生している状態は、研究上も別のものとして扱われます。回復を妨げるのは後者です。

見分け方は単純で、新しい結論が出ているかどうかです。同じ場面を3回以上再生していて、毎回同じところで止まっているなら、それは考えているのではなく反芻しています。

反芻はそれ自体が抜けにくい構造を持っているので、切り替えの工夫だけでは足りないことがあります。抜けるための具体的な手順は、仕事のミスを引きずるときの記事にまとめました。

休暇より、平日の30分

長期休暇に期待したくなりますが、休暇の効果を調べたメタ分析では、休暇中に改善した健康と幸福感は仕事に戻ってから最初の1週間のうちにほぼ消えることが報告されています。

これは休暇が無駄だという意味ではありません。ただ、回復の主戦場は年に1度の休暇ではなく、平日の夜のほうにある、ということです。1日30分でも仕事から離れられている時間があるかどうかのほうが、累積では効きます。

その30分を何に使うかを決めておく話は、休んでも疲れが取れないときの記事で扱っています。

支えが仕事の中にしかないと、離れにくい

最後に、切り替えにくさのもう一つの理由に触れておきます。

離れた先に行き先がないと、人は離れられません。 予定がなく、会う人がおらず、通う場所もない状態では、頭が仕事に戻るのは自然なことです。この場合、問題は切り替えの技術ではなく、行き先の側にあります。

支えが仕事に集中しているときに起きることは「仕事しかない人生」と気づいたときの記事で、行き先を新しく作るのではなく既にある場所を育てるやり方はサードプレイスの作り方の記事で扱っています。

ココロバランスがやっていること

ココロバランスは、心の支えを複数の「柱」として登録して、いまどこに寄っているかを見えるようにするアプリです。

心理的距離という観点で役に立つのは、帰宅後に向かう先を、思い出さずに済む形にしておけるという点です。消耗しているときは選択肢そのものが思い浮かばなくなるので、決断の手前で詰まります。記録は週に1回30秒で、毎日の入力は求めていません。

info

つらさが続くとき

寝つけない状態や、休日にも仕事の思考が止まらない状態が長く続く場合は、産業医や医療機関にご相談ください。厚生労働省のこころの耳には、働く人向けの電話・メール相談の窓口があります。

参考文献

よくある質問

考えないようにすればいいのですか?expand_more

「考えない」を目標にすると、たいてい逆効果になります。抑え込もうとする行為そのものが対象への注意を保つためです。研究で扱われている心理的距離は、頭を空にすることではなく、注意が別のものに実際に向いている状態を指します。だから有効なのは、考えるのをやめることではなく、頭を使う別の活動を置くことのほうです。

仕事が好きな場合でも、切り替えたほうがいいですか?expand_more

研究上は、仕事について考えることの中身を分けて扱います。前向きに構想を練っている状態と、うまくいかなかったことを繰り返し再生している状態は別のものです。問題になるのは後者で、こちらは休息時間を占領して回復を妨げます。楽しく考えているうちは無理に止める必要はありませんが、寝つきや翌朝の重さに出ているなら、それは別の信号です。

在宅勤務だと余計に切り替わりません。expand_more

通勤という物理的な切れ目がなくなるため、構造的に難しくなります。研究でも、終業と休息のあいだに区切りとなる行為があるかどうかが効くとされています。在宅の場合は、その区切りを自分で作る必要があります。散歩、着替え、PCを閉じて別の部屋に移す。内容よりも、毎日同じ手順であることのほうが効きます。

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ココロバランス編集部

心理学・行動科学の公開研究や書籍を参照しながら、日常で実践しやすいセルフケアの知恵をまとめています。強い不調が続く場合は、自己判断だけに頼らず医療機関や専門家にご相談ください。

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