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がんばれていたはずなのに、ある時期を境に何も感じなくなる。仕事に腹も立たないし、うまくいっても嬉しくない。ただ淡々と処理している。
これは「気持ちが落ち着いた」のではなく、消耗が進んだ結果として起きていることがあります。
WHOはバーンアウトをどう定義しているか
バーンアウト(燃え尽き症候群)は、WHOの国際疾病分類ICD-11に「QD85」という項目として収録されています。ただし、置かれている場所が重要です。病気や健康状態の章ではなく、「健康状態に影響を与える要因」の章に入っています。
バーンアウトは、適切に管理されなかった慢性的な職場のストレスから生じると概念化される症候群である。次の3つの次元によって特徴づけられる。(1) エネルギーの枯渇・消耗の感覚、(2) 仕事に対する心理的な距離の増大、あるいは仕事に関する否定的・シニカルな感情、(3) 職務における効力感の低下。バーンアウトは職業上の文脈に特有の現象を指すものであり、人生の他の領域の経験を説明するために用いるべきではない。
つまり、公式には「病名」ではありません。しかし「そういう状態がある」ことは国際的に認められています。個人の性格の問題ではなく、職場のストレスが管理されなかった結果として起きる、と定義に明記されている点は、押さえておく価値があります。
3つの次元を、日常の言葉に置き換える
定義の3つの次元は、実際にはこういう形で現れます。
消耗
エネルギーの枯渇
- ・朝から疲れている
- ・休んでも回復した感じがしない
- ・身支度や移動そのものが重い
- ・帰宅後、何もできずに寝てしまう
心理的な距離
否定的・シニカルな感情
- ・仕事の話題を避けたくなる
- ・何を言われても心が動かない
- ・同僚や顧客が「案件」に見える
- ・どうせ変わらない、と思っている
効力感の低下
職務における手応えの喪失
- ・自分がやる意味を感じない
- ・できていたことに時間がかかる
- ・成果を出しても実感がない
- ・誰でもできる仕事だと思う
このうち、自分でいちばん気づきにくいのは真ん中の「心理的な距離」です。感情が動かなくなった状態は、本人からは落ち着いた・大人になった・割り切れたと見えることがあるためです。
まわりからも問題として見えにくくなります。怒らないし、荒れないし、仕事は回っている。むしろ「安定した」と評価されることさえあります。
順番があるとは限らない
3つの次元は段階ではなく、同時に、あるいはばらばらに現れます。消耗だけが強い人もいれば、消耗はそこまでではないのに関心だけが完全に消えている人もいます。全部そろっていないから違う、という読み方はしないほうが実情に合います。
何が消耗させているのかを、要求と資源で分ける
産業・組織心理学には「仕事の要求度-資源モデル(Job Demands-Resources)」という考え方があります。仕事の条件を、**要求(消耗させるもの)と資源(支えるもの)**の2つに分けて見る枠組みです。
このモデルでは、消耗を生むのは主に要求の側、仕事から気持ちが離れていくのは主に資源の不足の側だと整理されています。ここが実務的に使えるところです。「忙しさ」だけを見ていると、後半の問題を見落とします。
上位に来ているのは量・責任・質で、いずれも要求の側です。一方で、資源の側——裁量があるか、相談できる相手がいるか、やったことが認識されているか——は、こうした調査の見出しには出てきにくく、自分でも言語化しにくい部分になります。
「忙しいだけなら耐えられるのに、なぜかもたない」という感覚には根拠があります。 忙しさは要求の話で、もたなさは資源の話であることが多いからです。
気づいた時点でやること
まず、原因を絞り込む前に確認しておきたいことがあります。消耗している状態のまま「自分の何が悪いのか」を考えると、ほぼ確実に答えを間違えます。 判断力が落ちているときの内省は、自己批判の方向に流れやすいことが知られています。
やることは、原因の特定ではなく、事実の分離です。
- 1
この1週間で、いちばん消耗した場面を1つ書き出す
評価は不要です。「火曜の夕方の差し戻し」「木曜の長い会議」といった、時刻と場面だけで構いません。
- 2
それが要求か資源かを分ける
量が多かった・責任が重かったなら要求の側。裁量がなかった・誰にも相談できなかった・やったことが誰にも認識されなかったなら資源の側です。
- 3
資源の側が出てきたら、そこを先に見る
量を減らす交渉より、相談先を1つ確保するほうが早く効くことがあります。順番の問題です。
- 4
仕事の外に、支えが残っているか確認する
この時期は、仕事以外の予定から先に消えていることがほとんどです。残っているものが何かを確かめます。
- 5
2週間続いていたら、人に言う
産業医、社内の相談窓口、かかりつけ医、家族。誰でも構いません。言語化された時点で、判断が自分ひとりの中で回らなくなります。
「休めば戻る」で終わらないのはなぜか
休暇の効果を調べたメタ分析では、休暇中に健康と主観的な幸福感が改善する一方で、その効果は仕事に戻ってから最初の1週間のうちにほぼ消えることが報告されています。
これは休むことに意味がないという話ではありません。休暇は消耗を戻すが、消耗させている条件は戻さない、という当たり前のことを示しているだけです。条件が変わらなければ、同じ速度で減っていきます。
長期休暇より効くと分かってきているのは、日々の中で仕事から心理的に離れる時間を確保することのほうです。この「心理的距離(psychological detachment)」については、家に帰っても仕事のことを考えてしまうときの記事で詳しく扱っています。
休む前に決めておくこと
連休が近いなら、休みの過ごし方より先に「戻った週の最初の3日をどう軽くするか」を決めておくほうが効きます。休暇明けは、休む前より条件が悪くなっていることが多いためです。前日の自分が判断を済ませておく考え方は、気が重い予定に備える記事にまとめました。
支えが仕事だけになっていた場合
バーンアウトが深く効いてしまう人には、共通した状況があります。評価も、人間関係も、時間の使い方も、仕事を中心に組み上がっているという状態です。
この状態自体は、悪いことではありません。仕事に注げる時期はありますし、それで成果が出ていたのなら理由もあります。ただ、支えが一つのときは、その一つが揺れた日に受け止める先が残りません。バーンアウトは、まさにその一つが機能しなくなる出来事です。
支えが一つに集まっているときに実際のところ何が起きるのかは、「仕事しかない人生」と気づいたときの記事で扱っています。数を増やせば強くなる、という単純な話ではないことも含めて整理しました。
ココロバランスがやっていること
ココロバランスは、心の支えを複数の「柱」として登録して、いまどこに寄っているかを見えるようにするアプリです。
やっているのは、バーンアウトを判定することではありません。支えが仕事一本に寄っていく過程は、進んでいる最中には自覚しにくいので、それを図の形で見えるようにしておくこと。そして、週に1回30秒だけ状態を確かめられるようにしておくことです。毎日の記録は求めていません。
つらさが続くとき
消耗や気分の落ち込みが2週間以上続く場合は、一人で判断せず専門機関にご相談ください。職場に産業医がいる場合はまずそこが最短です。ほかに、厚生労働省のこころの耳(働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)や、こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556)から相談先を探すことができます。
参考文献
- World Health Organization (2019). Burn-out an "occupational phenomenon": International Classification of Diseases.
- Bakker, A. B., Demerouti, E., & Sanz-Vergel, A. (2023). Job Demands–Resources Theory: Ten Years Later. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 10, 25-53.
- Demerouti, E., Bakker, A. B., Nachreiner, F., & Schaufeli, W. B. (2001). The job demands-resources model of burnout. Journal of Applied Psychology, 86(3), 499-512.
- de Bloom, J., Kompier, M., Geurts, S., et al. (2009). Do We Recover from Vacation? Meta-analysis of Vacation Effects on Health and Well-being. Journal of Occupational Health, 51(1), 13-25.
- 厚生労働省(2025). 令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要.
よくある質問
バーンアウトは病名ですか?expand_more
病名ではありません。WHOの国際疾病分類ICD-11には項目として載っていますが、「健康状態に影響を与える要因」の章に置かれていて、病気や健康状態としては分類されていません。つまり「診断がつくもの」ではなく、「そういう状態がある」と公式に認められている、という位置づけです。ただし、その状態が続いた先にうつ病や適応障害が来ることはあるため、放っておいてよいという意味ではありません。
ただの疲れとの違いは何ですか?expand_more
休んだあとの戻り方が違います。疲れであれば、週末や連休で多少は回復した感覚が出ます。バーンアウトに近い状態では、休んでも消耗が抜けず、加えて仕事への関心そのものが薄くなっていることが多くなります。判断の目安になるのは「休んだのに戻らない」と「どうでもよくなっている」が同時に起きているかどうかです。
休職しないと回復しませんか?expand_more
必ずしもそうではありません。ただ、原因になっている働き方が変わらないまま時間だけ経っても、戻りにくいことは知られています。休むかどうかより先に、何が消耗させているのかを具体的に特定するほうが実際的です。判断に迷う段階なら、産業医や医療機関に相談して決めるのが安全です。
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ココロバランス編集部
心理学・行動科学の公開研究や書籍を参照しながら、日常で実践しやすいセルフケアの知恵をまとめています。強い不調が続く場合は、自己判断だけに頼らず医療機関や専門家にご相談ください。